尾瀬の山小屋が今季も新型コロナウイルスと向き合いながら営業している。手探りだった昨季に比べて営業施設数も増えた。収束が見えないコロナへの慣れを警戒しつつ、ハイカーたちを支えている。
「お客さんとの距離が近くなり、心が充実しています。山小屋を開けて良かったと思っています」
群馬県片品村の登山口・鳩待峠から歩いて約1時間の尾瀬ケ原(標高1400メートル)西端の山ノ鼻地区。尾瀬ロッジを切り盛りする萩原久美枝さん(69)は笑顔だ。宿泊人数を多い日でも定員の半分にあたる50人ほどに減らしたことで、気持ちに余裕ができたという。
昨季は消毒液やマスクが十分に入手できずに休業したが、宿泊を断るのは心苦しかった。かつては満員続きで疲れ果てた時もあったが、1年も休むと、さびしかった。「働いていないと張りが出ない。常連さんのありがたさも身にしみました」
換気扇を増設して、仕切り板なども設置。密を防ぐために椅子の所々にはオコジョのぬいぐるみを置いて座れなくした。手作りの朝食を弁当タイプに変更して、至仏山を望む屋外の飲食スペースを増設し、そこでも食べられるようにすると好評だった。収益は落ちたが、「今はそれでいいと思っています」。
山小屋と休憩所は昨季、約30施設のうち4割が営業を休止。営業開始も感染対策の準備で遅れて7月となり、ミズバショウの見頃は過ぎてしまった。大きな混乱もなくシーズンを終え、今季は多くの施設が例年通りに営業を始めている。
東京パワーテクノロジー尾瀬林業事業所は運営する山小屋の5軒のうち4軒で営業する。小暮義隆所長(51)によると、首都圏で緊急事態宣言などが断続的に出たことで昨季同様に利用者数の伸びは鈍かった。
しかし梅雨明けとともにハイカーが多く訪れ、週末には拠点となる片品村戸倉の駐車場が満車状態に。収容人数を半減した山小屋も「満室」が続き、利用者数は例年の約5割だという。
「自粛疲れから、一気に訪れたのかもしれない。万全の対策を取っているので楽しんで欲しい」と小暮所長。家族連れや在日の外国人グループの姿も目立つという。
家族経営をしている山の鼻小屋の萩原聖彦さん(46)は「昨年ほどの絶望感はなくなった」と話す。感染者数を知らせるテレビにも立ち止まって見ることはなくなった。ただ消毒や換気の徹底という対策は変わらず、「慣れは怖い、と気を引き締めながら続けています」
尾瀬保護財団は入山自粛を求めていない。一方で自治体の情報を確認することや、コロナ対策に配慮した救助には時間と人手がかかるとして、体調不良の時は入山を控えるよう呼びかけている。(張春穎)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル