炎天のもと、駅頭には大勢の人たちが集まっていた。天皇陛下が皇后雅子さま、長女愛子さまをうながすと、お三方ですたすたと歩み寄り、声をかけた。
赤ちゃんの前にしゃがみこみ、若い母親と笑顔で語らう。愛子さまのジョークにはどっと笑いが起きた。まるで「ご近所さん」と話すような雰囲気。気さくな雰囲気での懇談は30分以上も続いた。
今年8月。JR那須塩原駅頭での場面だ。
十余年前も、同じ駅頭で、ご一家を何度か取材した。雅子さまの体調がすぐれない時期で、笑顔がこわばっていたように記憶している。待ち受ける人たちに近づくことはなく、離れた場所で数分間手を振ると、すぐ車に乗り込んだ。それに比べると、なんという変化だろう。
雅子さまが皇室に入る前、縁あって何度となく直接お話しする機会があった。ユーモアに富み、大きな声でよく笑う。外交官として活躍していた時期だったが、驚くほど控えめで、私の問いかけにいつも正面から誠実に答えようとした。婚約内定の記者会見(1993年1月)で「殿下をお幸せにしたい」と述べて批判が出たこともあったが、率直に気持ちを述べようとした表れだったと思っている。
雅子さまブームにわいた結婚だったが、その後は順調とは言いがたかった。「男の子のできない皇后は存在価値がない」。関係者によると、そう思わされる出来事が重なり、自信を失っていったという。一進一退を繰り返し、公務を直前で取りやめることも、しばしばだった。
待ち受ける人々の期待に沿おう…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル