何か忘れている気がする。何か大事な締め切りを――。あっ、「忘れようとしても思い出せない」展の原稿だ!
時とともに薄れ、変質していくのが「記憶」というもの。そんな、あいまいで不可思議な記憶にまつわる作品を集めた6組の作家による展覧会が、滋賀県近江八幡市のボーダレス・アートミュージアムNO―MAで開かれている。展覧会名は、往年のギャグにちなんでいるという。
生まれつきろうあの齋藤勝利(かつとし)は最初、コミュニケーションの手段として絵を学んだ。やがて遠足バスの車窓風景を記憶にとどめ、スピード感あふれる筆致で描くように。スケッチブックをめくると山の尾根や電線などの連続した景色が再現されており、迷子になって帰ってきた後でたどった道順を正確に描いて見せたこともあったという。
岡部亮佑(りょうすけ)は常に紙とペンを持ち歩き、描いては修正液で消すことを繰り返す。幼少期の自身の写真に紙を貼ってその場にいなかった人物を描き加えたり、紙にセロハンテープを巻き付けたり。頻繁に登場する赤い服の女性の意味やモチーフが現れては消える画中画のような構成など、謎めいた作品の数々について作家自身が語ることはない。
工事現場の盛り土や道路標識の…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル