政府は、極めて短時間に記録的な雨量を計測した九州の豪雨の初動で、被害規模の把握に手間取り苦しんだ。人的被害は想定を上回って推移し、安倍晋三首相は「必要な支援に全力を尽くす」と繰り返す。立ち上がりの遅れを取り戻すかのように繰り出す対応の後ろに、過去の災害で経験した手痛い失敗が垣間見える。 【上空ルポ】豪雨の爪痕、今なお生々しく…熊本の今 10日夕、首相は非常災害対策本部の会議冒頭、今回の豪雨を激甚災害に指定する見通しを公表。長期化する避難生活に疲れの色を隠せない被災者と世論を意識し、閣僚らに「停電や断水について一刻も早く復旧させなければならない」とハッパを掛けた。 発災直後の4日午前に関係閣僚会議を招集。翌5日には最大級の災害を対象とする非常災害対策本部を設置。政府の初動は迅速、的確で無駄が無いように見える。だが、複数の政府関係者はこう省みる。「災害の進展が急すぎて、被害全容の把握が全く追いつかなかった」-。
地震や水害などの災害が発生した際、政府は官邸地下の危機管理センターで情報を一元化し、まず人的被害の数、規模をとらえる。集約する情報は膨大で、警察や消防への通報、自治体からの連絡、報道、住民がリアルタイムで発信するSNS、小型無人機ドローンの映像などがある。 ところが今回の豪雨は未明に始まり、わずか数時間でみるみる状況が悪化したため、関係機関による1次情報の収集と分析、活用が後手に回った。象徴的だったのは、気象庁が熊本、鹿児島両県に大雨特別警報を出した時間。それは、人々が寝静まった4日午前4時50分だった。 被災地では通信インフラが打撃を受け、情報が滞った。交通も遮断され、孤立した山間部の集落の被害は警察や消防、自衛隊などが一軒一軒、徒歩で確認して回るしかなかった。政府高官が「ようやく全体像が見えてきた」と認めたのは、週が明けた6日朝。死者、行方不明者は既に数十人規模に膨らんでいた。
■ 「ここまで被害が広がるとは思わなかった」と、防災業務を所管する内閣府幹部。数日後までの動線予測が可能な台風と異なり、今回のように局地的に猛烈な雨をもたらす線状降水帯の予測は現段階では難しい。気象庁幹部は周囲に、「今の技術では10年かかる」と話す。 安倍政権にとっては、災害の初動対応は鬼門でもあった。2年前の西日本豪雨では大雨警戒が続く中、首相と自民党議員が「赤坂自民亭」と称する宴会を開いていたことが分かり、批判を浴びた。昨秋の台風被害も、野党からは「内閣改造の時期と重なったために政治空白が生まれ、初動が遅れた」と追及されている。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース