電力2社の料金プランの比較、面接の受け方、いったん納めた入学金は返還されるか――。2022年度の1年生から使われる高校の教科書では、学習内容を身近なことがらと結びつけようと、教科書各社が工夫をこらした。背景には、高校生の学習意欲が高まらない現状がある。
身の回りの物事を数学的な目で見てみよう。数学ではそんな問いが目立った。
画角40度のカメラで建物全体を撮るには何メートル離れたらよいか(啓林館)、車のスリップ痕の長さから速度を求める(東京書籍)、切り重ねた紙がスカイツリーの高さを超えるのは?(実教出版)といった具合だ。
「高校数学は生活に不要、役立たないと思われがちだった」。ある会社の担当者はそう話す。問題を解くのが中心だった学び方から、日常にひきつけて生徒の関心や意欲をかき立てる工夫に力を入れた。「数学的な物の見方や学ぶ意義が伝われば」
実用性を意識し、高校の創立記念ボールペンの制作費を考える(数研出版)、電力会社の安い料金プランを比較する(実教出版)という設問もあった。
絵画から生まれた数学(数研出版)、刑事ドラマのアリバイでわかる背理法(実教出版)、電子体温計に使われている微分(同)、試験で2回同じ得点だった時の偏差値の求め方(東京書籍)など、コラムにも身近な話題が多い。
ゆで卵きっかけに探究
東京書籍の生物基礎は、ゆで卵の作り方を扱った。
「どのくらいの温度でどのくらいの時間ゆでたら、私好みのゆで卵になるんだろう」。ある朝、弁当に入れる半熟卵について、インターネットで調べようとした高校生。だが、何をどう調べればいいのか分からない。理科の先生に相談し、「科学的な探究の進め方に基づいて考えていこう」と助言される。
教科書は「仮説の設定→検証計画→実験→結果の処理→考察」という探究のプロセスを、漫画形式で解説している。高校生は温度やゆで時間の仮説を立て、実験。考察の過程で「黄身と白身では固まる温度が違う?」などと新たな疑問が生じ、さらに探究していく。
今回の教科書のベースとなる新学習指導要領は「観察、実験などを行い、科学的に探究する力を養う」ことを目標に掲げた。同社の教科書は冒頭で、「日常にある自然事象に対して関心をもち、不思議だと思う気持ちから科学の探究が始まる」と呼びかける。編集担当者は「詰め込み型ではなく、実験をベースにして生徒が疑問点を見いだし、課題を解決するようにした」と話す。
帝国書院の公共は、契約についての学習を踏まえ、「入学を辞退したら入学金や授業料は返還されるか」を考えるページを設けた。先に合格した大学に入学手続きを済ませた後、行きたい大学に合格した場合、先に納付した入学金や授業料は返還されるのか考えてみよう、と投げかける。
メールや履歴書の書き方…実用重視に否定的な社も
国語も、新学習指導要領は「現代の国語」「論理国語」「国語表現」の3科目の目標に、「実社会に必要な知識や技能を身に付けるようにする」と掲げる。
東京書籍の「新編 現代の国語」は、手紙やメール、履歴書の書き方などを学ぶ付録をつけた。担当者は「1年生のうちから少しずつ社会に出る準備をしてもらおうと、社会ですぐ役に立つものを取り上げた」という。
「面接の受け方」のページでは、「控室」「呼び出し」「退室」など7場面での作法を、イラスト付きで紹介。「入室」の場面には「『どうぞ。』の声でドアを丁寧に開閉して入室し、面接官の方を向いて一礼する」などと説明する。「入社(入学)したらどんなことをやってみたいですか」など、質問例も列挙した。
「相手に応じた言葉の選び方」というページも、社会即応型の教材だ。文化祭実行委員の生徒が、レンタルした音響装置を壊してしまい、先生やレンタル会社に報告する際の適切な言葉遣いを考えさせる。
一方、筑摩書房は実用的な要素を新たに盛り込みつつも、評論など読みもの重視の姿勢は変えなかった。担当者は「実用性というのはあくまで言葉の持つ一側面なので、(教科書の中で)『これは役に立ちますよ』というアピールはしない」と話す。(堀之内健史、石平道典、杉原里美、川村貴大)
6教科で、コロナに関する記述
新しい高校の教科書には、地理…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル