大学でDNA解析の技師として勤める傍ら、どうしても頭から離れない思いがあった。ガラス加工業を営んでいた実家の光景。45歳を過ぎ、やっぱりものづくりの現場に身を置きたいと選んだのは、東北の伝統こけし職人だった。来春には自らの工房を構え、地域に根ざした「推しこけし」で魅力を広げようと奮闘する。
宮城県大崎市の鳴子温泉街にある工房で、田辺香さん(48)がろくろと向き合っていた。くるくる回るこけしの胴体に頭部を装着する「首入れ」は、こけしづくりで最も緊張が走る一瞬だ。
「せーの! あっ」
思ったより力を入れすぎた。摩擦で木の焦げた匂いが広がり、粉が舞う。鳴子こけしは首を回して「キュッキュッ」と鳴る音が最大の特徴なのに、首が胴体に密着してしまい、これだと回らない。「失敗しました」。木を手に取って、問題を確認していた。
脇で見つめていた師匠の岡崎靖男さん(68)が「木の質や乾燥具合、湿気や気温でも木の顔色が変わるもんよ」とアドバイス。鳴子こけしを製造販売する「こけしの岡仁」店主で、伝統工芸士だ。
汗を拭う田辺さんは「ものづくりの妙味ですね。毎日、勉強です」と言いつつ、「毎日うまくいったら師匠の立場がありませんよね」と笑顔を見せた。「そうだよ。こっちは長年やってきたんだから」。師匠の返しにまた笑いが起きた。
PCR検査は専門分野 秘めた思いが…
田辺さんが岡崎さんの工房でこけし制作を学びだしたのは一昨年春。
以前は、水産関連企業で水質…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル