「将来的には自分の考え方はふつうになるでしょうが、いまは過渡期」。秋田の酒蔵「新政(あらまさ)酒造」8代目で「異端児」とも評されてきた佐藤祐輔さんは、これからの酒造りについて、そう話します。地元の米を、江戸時代の製法により木桶(おけ)で仕込む……前近代的な手法のようで、物差しを持続可能性に変えれば、最先端を走っています。使うのは、その土地の水と米、そして目に見えない菌という力が、和食の可能性を広げます。
――杉桶が並ぶ仕込み蔵の眺めは壮観です。
いま46本、もうすぐ2本増えます。昔あったいいものは使って、現代の人が求める酒質を担保するというハイブリッドの酒造りをしています。もともと自然志向ですし、「なぜか」と問われれば今の視点で分析しそうになりますが、実は単純。自分が日本酒を飲むとしたらどんなものがクールか、かっこいいか。それだけを考えたから、迷わずやってこられました。
酒に対する考え方はそれぞれなので、自分のスタイルを皆に支持してもらうつもりはありません。ただ、こんな暑い時代に生まれた子どもたちは二酸化炭素は減らしたいと思うはずで、自分の考え方はふつうになるんでしょう。
――32歳で東京から帰って16年、蔵を次々と改革しました。宣言したことでいえば、米は秋田県産だけ、酵母は蔵発祥のきょうかい6号だけ、純米酒だけ。酒母すべてが生もと(
酉の右に元)づくりになりました。
あらゆる酒の中で、最もピュアで美しいのが生もとの純米酒だと思っています。生もと(酉の右に元)は製造工程に人工的なものを加えることなく、酒が腐敗するのを防ぎきる。画期的な製法です。江戸時代に完成して、昭和初期まで日本のどの蔵でもそうしていました。蒸した米とこうじを水と混ぜてすりつぶしたり、天然の乳酸菌を育てて酸を生み出させたりと、時間と労力がかかる。それでもビールにもワインにもない技術には価値があります。
日本酒は、戦後変わり過ぎたのではないでしょうか。製法の主流は「速醸もと」で、速く大量の酒を安定的に仕込むことが求められた時代の製法ですが、そのまま続いています。生もとが古い製法と聞くと、くせのある酒を想像するかもしれませんが、きちんと作れば雑味の片鱗(へんりん)もでない。我々の酒は「鮮やかな酸」が特徴ですが、これは生もとの影響が強い。そもそも昔の日本酒はもっと酸があって、豊かな味だったんです。
生もとを始めて3、4年はト…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル