東京都三鷹市の古民家保全地域で栽培されているワサビが、希少な在来種であることがDNA鑑定で明らかになった。このワサビ、江戸後期に三重県の伊勢から持ち込まれ、江戸前ずしブームで栽培が広がったとの言い伝えも残る。遺伝子情報をたどると、さらなるルーツも見えてきた。都心の近くで奇跡的に生き残った「幻のワサビ」。地域の宝を守る取り組みも始まっている。(井上恵一朗)
「幻のワサビ」のルーツは意外なところに。後半では、「日本の固有種」であるワサビの歴史と、危機が迫っている近年の現状にを紹介します
三鷹市の大沢地区。野川沿いにそびえる国分寺崖線からわき水が出る一角の約800平方メートルで、ワサビが栽培されている。
言い伝えによると、200年ほど前の文政年間、伊勢出身の箕輪政右衛門が始めたワサビ田だ。仕官目的で上京したが、江戸は当時、登場間もない握りずしがブーム。ワサビの需要が高まっていた。大沢の豊かなわき水に着目し、故郷近くの五十鈴川に生えていたワサビの移植を思いついたとされる。
「今で言う、ベンチャービジネスでしょう」と市生涯学習課の下原裕司学芸員(56)は語る。
主産地のワサビと比べて根茎が小さいが、出荷先の神田や築地市場で「味がよい」と評判を得た。周辺の市街化が進んでわき水が減ってしまい、昭和後期には生産されなくなった。
放置されていたワサビに再び光があたるのは、市が箕輪家から古民家を寄贈され、整備を始めてからだ。
2018年の一般公開に向けて史的な価値を調査する一方、「江戸東京野菜」ともいえるワサビの復活にボランティアらと取り組んできた。その過程で、「ワサビ博士」で知られる岐阜大学の山根京子准教授(49)にDNA鑑定を依頼した。
栽培植物起源学が専門の山根准教授は05年から、全国300カ所以上でワサビ属植物の分析をしてきた。現存するのは、「だるま」など根茎が太くて栽培向けの3品種に由来するものが大半で、かつて各地の中山間地にあった野生と栽培の中間的な「在来種」はほぼ姿を消してしまったとわかってきていた。
「三鷹も、またいつものだろうと期待していなかったが、調べたら全く違って驚いた」
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル