東京・霞が関の東京家裁入り口で2019年3月、離婚調停中だった妻(当時31)を殺害したとして、殺人罪に問われた米国籍の男性被告(37)の裁判員裁判で、東京地裁(向井香津子裁判長)は20日、無罪(求刑懲役22年など)の判決を言い渡した。刑事責任能力が問えない「心神喪失」状態だったと判断した。
判決によると、男性は統合失調症を発症し、18年7月ごろから妄想や幻聴の症状が悪化。妻は息子に危害を加えられることを恐れて、息子と一緒に家を出た後、離婚を求めていた。
判決はこうした経緯から、殺害に至った要因は「慎重に考える必要がある」と述べ、男性の言動や男性の父親など周囲の証言、男性が精神鑑定で話した内容などを検討。殺害は正常な心理による行為ではなく、「妻を殺さなければ、妻や息子が拷問されて殺される」との妄想や、「やる時間だ」という幻聴が決定的要因だったと認定した。
検察側は、男性が妻を待ち伏せし、刺した後に逃走したことなどから、精神疾患の影響はないと主張していた。だが、判決は、症状の程度は時期によって異なるため、「個別に切り出せば、合理的に見えることはあり得る」と指摘。妄想の影響を否定する根拠にはならないとして退けた。(金子和史)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル