「(質問の)趣旨が分かりません」。法廷でいら立ちを見せた東大教授は、持っていた書類を証言台に放り投げた。問い詰めていたのは、教授が在籍する東大出身の検察官。日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告(67)の元側近の裁判で、5時間にわたって交わされた激論のテーマは「5文字」をめぐる法解釈だった。
4月22日の東京地裁。海外逃亡を続けるゴーン元会長のいない被告人席には、昨年秋の初公判以降、共犯として起訴された元代表取締役グレッグ・ケリー被告(64)が座る。
検察側が証明しようとする起訴内容は「ゴーン元会長の報酬は2010~17年度の8年間で計約170億円だったのに、有価証券報告書(有報)には各年度に実際に支払われた約79億円だけを記載し、退任後に後払いすることにした残りの約91億円(=未払い報酬)は書かなかった」というもの。罪名は金融商品取引法違反(虚偽記載)で、10年以下の懲役や1千万円以下の罰金の刑事罰が規定されている。
この日は、無罪を主張するケリー元役員側が申請した東大の田中亘教授が証人として出廷した。会社法などが専門で、解説書や論文を執筆している。
「東大の田中教授」 ゴーン元会長、レバノンで唐突に
この事件で田中教授の名前を初めて公の場で口にしたのはゴーン元会長だった。20年1月、逃走先のレバノンで会見した際、「私はまだ支払われていない報酬のために逮捕された。多くの国で刑事事件にならない話だ」と述べた後、唐突に「東大の田中教授」の名前を挙げてこう言った。
「彼は『日本がこれでゴーンさんを逮捕したのは恥ずかしいことだ』と言っている」。逃亡直前、元会長の当時の弁護団が田中教授に接触し、見解を求めた時のやり取りを引用したものだった。
証人尋問では、最初にケリー元役員の弁護人が質問した。田中教授はまず、罪に問われている有報の「虚偽記載」が、金商法では「不記載」と区別されていることを解説した。
この後、「虚偽記載ではない」とする東大教授と、逆襲する検察側の5時間に及ぶ攻防を詳しく紹介します。
「重要な事項について虚偽の…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル