大阪教育大付属池田小(大阪府池田市)で起きた児童殺傷事件を題材にした舞台「大悲(だいひ)」が7月、東京で上演される。事件を起こした宅間守元死刑囚=執行当時(40)=の主任弁護人と犠牲女児の母という2人の視点から、事件に関わった人々の姿を描く作品で、10年以上の取材から構想を練り上げた脚本・演出家、西森英行さん(41)は「舞台を通じ、ともに事件について考え、行動を起こすきっかけになれば」と話す。(南里咲)
「大悲」は、「ストーリーA」「ストーリーB」の2作品。事件発生から宅間元死刑囚の死刑執行までの約3年間が題材だ。「A」では、反省の態度を見せない被告と対話し続けた弁護人の姿から、「犯罪史上特筆されるべき凶悪かつ無差別大量殺人事件」と評された事件を起こした男は「何者だったのか」を問う。「B」は娘を失った母親が、あることを機に事件を受け止め、前に向かって進み始める姿を描く。
脚本と演出を手掛けた西森さんは、東京を中心に活動する劇団「Innocent Sphere(イノセントスフィア)」の旗揚げメンバー。これまで、平成9年の神戸連続児童殺傷事件などを題材にした社会的な作品を制作してきた。
池田小事件を題材にしたいと考えたのは、事件の5年後。報道関係の知人から事件について話を聞き、「関係者が置かれた境遇や心境を知りたい」と思った。高校で講師として勤めた経験もあり、教員の立場からも事件を深く知りたいと、知人を通じて遺族や学校関係者、報道に関わった記者らに取材を重ねた。
10年超の取材を経て、作品のモデルに選んだ1人は、宅間元死刑囚の主任弁護人。「池田小事件の弁護人であることに、つらく悲しいものがあることを告白しないわけにはいかない」と述べ、金子みすゞの詩を引用して「君が摘んだのは、花の咲く前の芽だったことを忘れるな」と呼び掛ける異例の最終弁論を行った。
もう1人のモデルは、娘を失った母親。致命傷を負った娘が懸命に廊下を歩いたことを知り、「最後まで生きようとした姿から、前に進めるようになった」と語ってくれたという。
実際に起きた事件を舞台化することは難しく、「上演することで、誰かを傷つけるかもしれない」との恐れが「常にある」と明かす。それでも舞台化するのは、「観客と事件を考え、何らかの行動に移すきっかけにしたい」から。上演まであと1カ月余り、「最後まで最善の形を探り、模索し続ける」決意だ。
これまでの活動を通じ、「事件の背景にはさまざまなことが複合的に関係しており、多角的に事件を見ないと原因を追究したことにはならない」と考えている。先月28日に川崎市でスクールバスを待つ児童らが殺傷された事件には、「視聴者の怒りにあおられ、報道の多くが犯人の生い立ちや生活状況だけに原因をとどめて単純化しようとする風潮に、やるせなさを感じる」と話した。
「大悲」は7月19~29日、東京都渋谷区の新宿紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYAで。一般発売は6月15日から、全席8800円。問い合わせはオデッセー(03・5444・6966)。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース