南極大陸の氷が減ると地球全体の海面が上がる。その鍵を握るトッテン氷河の、世界に先駆けた観測に61次南極観測隊が挑んだ。その結果、周辺の大陸棚全域に温かい水が流れ込んでいることがわかった。夏隊は帰国して分析を始め、越冬隊は南極に残り、来季へ備えている。
南極観測が始まって60年以上だが、極寒の大陸は日本の37倍の大きさで、いまだ人の手が及ばぬ所は広大にある。トッテン氷河周辺は、その一つだった。人工衛星で氷の高さや質量をとらえられるようになり、消失の加速が見えてきた。氷河の末端は海へ張り出しており、そこが崩れると周辺の大陸上の氷も海へ流れ出し、地球の海面を約4メートル上げると試算されている。
拡大する南極大陸上の氷が氷山となって海へ流れ出ていく=2019年12月15日午前9時30分、南極・トッテン氷河沖、中山由美撮影
青木茂隊長(北海道大)らは、温暖化の気温上昇で氷が消失したのではなく、氷の下に流れ込む海水の影響ではないかとみる。周辺は海氷が厚くて接近が厳しく、これまで何が起きているかつかめていなかった。そこで日本が提案したのが砕氷艦「しらせ」とヘリコプターの利用だ。空や船から狙う10種余りの観測を米豪と共同で計画した。
拡大するトッテン氷河沖の「しらせ」。海氷の中に停泊してヘリコプターを飛ばした=2019年12月16日午前11時22分、南極・トッテン氷河沖、しらせヘリコプターから中山由美撮影
昨年12月、しらせは海氷を割りながらトッテン氷河沖へ。北海道大の中山佳洋さん(33)らが乗り込んだヘリは後部ハッチを開けたまま、船から飛び立った。操縦士はわずかに海面が開いた真上につけると合図する。「投下!」。いてつく強風を受けながらハッチ際にいた搭乗員が筒状の機器を投げ込む。しらせを運航する海上自衛隊ならではの技だ。機器が青い水面へ吸い込まれて、1分ほどで水温や塩分のデータが送られてきた。
拡大する後部ハッチを開けたまま飛行するヘリコプターの中で、海に投げ入れる観測機器を準備する搭乗員と観測隊員=2019年12月14日午前10時18分、南極・トッテン氷河沖、中山由美撮影
途中で機器の電源が切れるトラブルもあった。電気や通信に詳しい観測隊員らがかけつけ即座に直した。
海底の石には様々な生物が付着し、堆積物からは数万年前の環境を知りうる可能性も。記事後半では初の本格観測の成果を紹介しています。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル