記録的な大雨をもたらした台風19号では、多くの自動車も浸水被害を受けました。水につかった車は出火することがあり、昨年の台風では、1カ月以上たった後の被害もありました。取り扱いには、どんな注意が必要でしょうか。
自分での判断は危険
12日から各地を襲った台風19号の被害で、日本自動車連盟(JAF)には今、「水没した車を移動してほしい」といった依頼が殺到している。
「救援要請が集中しており、地域によっては現場到着まで長時間お待ちいただく場合がございます」。JAFはホームページでこう説明する一方、「冠水した車両の取り扱いには、くれぐれもご注意ください」と呼びかける。
なぜなのか。JAF東京支部事業課の善養寺雅人さんは、いったん車が水につかったら、水が引いた後でも「絶対にエンジンをかけてはいけない」と強調する。エンジンは、空気とガソリンの混合気を圧縮し、燃焼することで動力を得ているが、水が入るとこの圧縮ができず、エンジン自体が破損する恐れがあるためだ。
さらに、電気系統やコンピューターの配線に水がかかると感電事故やショートして出火する恐れもある。特に、ハイブリッド車や電気自動車は、高電圧のバッテリーを搭載しているためむやみに触るのは危険だ。
被害を最小限に食いとめるためには、ロードサービスや販売店に連絡し、整備工場まで運んだ上で修理する必要があるという。
では、具体的に、どこまで浸水すると注意が必要なのか。日本自動車工業会によると、車のフロアまで水が来ているかどうかが一つの目安になる。車内の床面に水が残っていたり、湿っていたりすると浸水被害を受けている可能性が高いという。ただ、一般の人が見分けるのは難しいといい、「自分で判断せずに速やかに専門業者に相談を」と呼びかけている。
また、エンジンを切っていても、オーディオの時計やコンピューターなどで常に電流が流れる状態にあり、自然発火する恐れも。
このため、国土交通省は、予防策として、バッテリーのマイナス側の端子を外し、電流が流れないようにしておく方法をホームページで紹介している。外した線の先端はビニールテープで巻いて絶縁し、バッテリーの側面に貼り付けておく。絶対にぬれた状態では扱わず、ゴム手袋をして作業すると安全だという。ただし、これはガソリン車の場合で、高電圧のバッテリーを使うハイブリッド車や電気自動車は触らない方がいいという。
海水はさらに危険、神戸で35台出火
さらに注意が必要なのが、高潮など海水による浸水があった場合だ。
「台風の翌日にエンジンをかけて走っていたら、車両の前部から出火して全焼した」「車を駐車していたら、エンジンをかけていないのに、火が出て全焼した」……。昨年9月、台風21号が上陸した神戸市では、直後から自動車が出火する被害が相次いだ。
神戸市消防局が調べると、台風にともなう高潮で自動車が海水につかったことが原因だとわかった。海水は雨水や河川の水と比べて電気を通しやすく、電気部品を早く劣化させてしまう。火災の多くは、配線の接続部分などに海水がかかったことで電気系統がショートして出火していたという。被害は合計で13件、35台に上った。
発生日で最も多かったのは浸水当日の7件。だが、翌日以降も火災は相次ぎ、最も遅かったケースでは、約6週間もたった後に出火した。大半はエンジン停止中の出火だったが、中には「もう大丈夫だろう」と走っていたら突然火が出たケースもあったという。
市消防局では「海水につかると出火につながる恐れがより高まり、時間がたってからでも火災は起こる。一見大丈夫そうに見えても、自分で判断せず、専門業者に点検してもらう必要がある」と注意を呼びかける。
こうした被害を防ぐには、どうすればいいか。同市消防局は「台風などによる浸水が予想されるときは、事前に車を高台に避難させるなどの対策をとってほしい」という。ただ、風雨が強まって危険が差し迫るほど、車を移動させる余裕はなくなる。事前にどこに車を移動しておけるかをチェックしておくことも重要になる。
今回の台風19号では緊急で商業施設が立体駐車場を開放したところもある。埼玉県越谷市は台風が迫った12日午後、災害時の応援協定に基づいてイオンレイクタウンに車両の一時避難所として駐車場の開放を依頼。約400台が事前に避難した。イオンによると、同様に少なくとも埼玉・群馬両県の複数の施設で車の一時避難を受け入れたという。(中村靖三郎)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル