薄暗いカラオケボックスの一室に、無口な男性が入ってきた。20歳前後だろうか。
出迎えた井上今里(いまり)さん(32)は緊張で体が固まっていた。
友人に頼まれたことがきっかけで、趣味として始めたのが「女装メイク」だった。モデルを募集するSNSの投稿を見て、その男性は応募してきた。
それまで応募してきた人たちは気さくな人ばかりで、メイクした姿を見て喜んでくれた。だからこそ、無表情の男性と接するのは怖かった。
いつも以上に素早くメイクを施した。片付けをしようとしていた時、女装姿の男性が震えながら口を開いた。
「僕は……。今までずっと両親にも兄弟にも内緒で女装をしてきました」
そう切り出した男性の言葉は止まらなくなった。
「いつも1人でビジネスホテルを借りて女装をしていた。自分は頭おかしいんじゃないかって悩んでいました」「どうしても女装をしたいという気持ちが抑えられないんです」
話しながら寂しそうな表情を浮かべる男性が、社会から孤立して生きているように見えた。
忘れていた自分の過去を思い出した。
外見へのコンプレックスを隠…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル