能登半島地震で海面が隆起し、石川県輪島市の輪島港では、船が出せず漁ができない状況が続いている。波止場の中央付近では、底引き網漁船「浜谷丸」が、地震発生当初から身動きがとれない状態が続いている。
18日、浜谷丸の浜谷達也船長(37)ら数人の漁師が小舟で浜谷丸に近づいていた。少しでも荷を軽くするため、1束数百キロあるという底引き網を船から下ろしたり、満潮時に船が流されないようロープで固定したりする作業に追われていた。
浜谷さんによると、1月1日の地震発生直後、浜谷丸を沖に逃がそうとしたが、船底から引っかかるような音がし、身動きがとれなくなり座礁。大きな波に流されて陸地に近づいたタイミングで浜谷さんらは脱出できたが、浜谷丸は波止場内で流され続けたという。
高校卒業後、漁師になった浜谷さんは、父とおじの3人で漁に出ていた。父は無口で厳しく、よく怒られたと振り返る。浜谷さんが20代半ばの頃、持病の悪化した父は、急きょ船を下りることになった。その後も網の修繕などを手伝ってくれていたが、「あと2、3年、じっくりと漁を教えたかった」と悔しそうに話していたという。2022年、透析治療などの末、父は亡くなった。
浜谷丸はそんな父が残してくれた船だ。今は小舟で定期的に近づき状況を確認しているが、船底が傷ついているかもしれないという。「見えているのに、近づけないもどかしさがある。できるなら、あの船でもう一度仕事がしたい。あきらめきれない」
ズワイガニ漁が解禁されている3月下旬までが、本来は底引き網漁のかき入れ時だった。漁に出られなくなった漁師のほとんどは金沢市などに避難しているという。(小林一茂)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。
※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル