文・西本ゆか、写真・相場郁朗
関東大震災で被災した遊女らが息絶えた池の名残を残す弁財天。観音像の顔(かんばせ)は憂いを秘めて美しく、見つめる私もいつしか安らぐ。
艶(なま)めきそよぐ「見返り柳」に見送られくにゃりと曲がる道を進めば、集う客には大きく開き、遊女には固く閉ざした「吉原大門」の跡を伝える街路灯が見えてくる。関東大震災が起きた日に猛火の中を大門に背を向け逃げた遊女は、ほとりに弁天様を祭る廓(くるわ)の池に次々飛び込み、折り重なって息絶えた。
悲劇の3年後に遊女らを悼んで建立された「吉原観音」が静かに佇(たたず)む「吉原弁財天本宮(もとみや)」(東京都台東区)は、昭和の初めに徒歩数分の「吉原神社」へ合祀(ごうし)された飛び地だ。戦後の再開発で埋められた池の名残を境内にとどめ、夜の街で働く男女が今も祈りに訪れる。
一歩入ると街の音が遠のき、静寂に包まれるよう。仰げば銀杏(いちょう)や桜の梢(こずえ)、名残の池にはニシキゴイ。地蔵や石碑が並ぶ石畳の道は地元の有志がこまめに清め、朽ち葉ひとつないほど美しい。
10月下旬、つるべ落としの残照にますます赤い境内の幟(のぼり)が線香の煙をまとって揺らめいた。一心に経を唱えるのは作家で僧侶の家田荘子さん。1999年秋から毎月欠かさぬ遊女供養だ。
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初めて訪れた時は苦しむ顔が…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル