奈良時代、全国の下級役人らを熱狂させたボードゲームがあった。名は「かりうち(樗蒲、加利宇知)」。夢中になるあまり国が傾くことを恐れたのか、当時禁止令が出されたレベル。古文書の記録や遺物がわずかに残るだけで謎に包まれていたやばいゲームを、奈良文化財研究所(奈良市)が現代によみがえらせてしまった。しかも、全国的な普及をもくろんでいる。
平城京跡から穴の空いた皿、これは!
かりうちは、平安時代の辞書「和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」で、「樗蒲」の項目に「和名加利宇知」という遊びと紹介されている。万葉集では「切木四」「折木四」を「かり」と読み、棒の組み合わせを示すような言葉遊びも登場。「うつ」は投げるという意味があることから、「かり」と呼ばれる木の棒を使う遊びがあったのではと考えられていたが、詳細は不明だった。平安時代に編まれた、古代の法典の公的な解説書「令義解(りょうのぎげ)」では、かりうちはすごろくとともに賭博として禁止されている。政を地道に支える役人が盛り上がれる機会として、財産をつぎ込み身を持ち崩してしまうような事態があったのかもしれない。
復活への芽生えは2015年。土器研究が専門の小田裕樹・奈文研主任研究員(41)が平城京跡で発掘された、規則的に並んだ穴の開いた皿を「かりうちに使われた盤ではないか」と発表したことから始まった。
小田さんは、古代の食事作法を研究するため、箸の先が当たってついた傷を探してその皿を見た。とがった物で意図的に付けられたとみられる点が、円の周りと円を6等分するようなライン上に並んでいた。
同様の点が付けられた物が、秋田、三重、新潟など各県の出土品にもあることがわかった。小田さんは「なぜ違う場所で同じような物が見つかるのか?」と疑問を抱く。
そんなとき、箸の研究書の挿絵に、似た形を見つけた。韓国で現在も遊ばれる、棒を投げて進む数を決める、すごろくに似たボードゲーム「ユンノリ」の盤面だった。ユンノリの棒の組み合わせには名前がつけられ、万葉集の研究者の間では、万葉集の言葉遊びとの関連が注目されていた。例の皿は「かりうち」の盤面らしいという結論に達した。
研究所内で最初に発表したとき、小田さんは「これは遊びとして復元できます!」と高らかに宣言した。周囲は冗談と思って笑っていた。小田さんは本気だった。韓国で使われているユンノリの道具を買い集め、研究した。だが、ゲームをつくるノウハウがなく、かりうち復元にはなかなか至らなかった。
行き詰まっていた小田さんに時代の追い風が吹いた。18年に文化財保護法が改正され、保存、保護だけでなく「活用」も重視されるようになってきた。かりうち研究は奈文研内での実践例として、20年度からチームでの復元プロジェクトが始まった。
奈良時代の人たちが夢中になった「かりうち」。でも、ルールの記録はありません。プロジェクトチームは知恵を絞り、ついに大会が開かれました。記事後半で紹介します。
かりうちプロジェクトチーム…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル