原発事故で傷ついた故郷を癒やそうと、9万9千本を目指して、桜を里山に植え続ける。旧知の世界的な芸術家も共感し、中心となって活動するのは福島県いわき市の「すごいおっちゃん」、志賀忠重さん(70)だ。250年先という壮大なゴールに向け、1歩ずつ進んでいる。
しが・ただしげ 1950年2月、福島県いわき市生まれ。磐城高校を経て東北工業大学建築学科卒。ガソリンスタンド、ソーラーシステム販売会社などを経営した。88年、当時は駆け出しの蔡國強氏がいわき市のギャラリーで開いた個展で、絵を購入したことから交流が始まり、94年には同氏が、海の沖合で火薬を爆発させ、その炎によって地球の輪郭を描こうとした「地平線プロジェクト」実行会に参加。97年には北極海を単独徒歩で横断した大場満郎さんの前線基地マネジャーも務めた。
――震災から2カ月後、いわき市の中心部から約4キロ離れた田園地帯の一角にある里山でサクラの植樹を始めました。
「世界に誇れる場所を故郷につくりたいと思った。4月になると、この辺りは山の桜がきれいで雰囲気が変わる。震災と事故から約1カ月たって少し気持ちも落ち着き、自分にできることはこれだと考えた」
――東京電力福島第一原発事故への腹立たしさも影響したそうですね。
「事故は生まれ育った、いわきの良さを一瞬で失わせた。大学時代に離れ、卒業して戻った時、豊かな自然、四季の移り変わりなどバランスが良く、居心地の良い場所と感じた。誰もが訪れたい場所のはずが、行きたくない場所になり、腹立たしかった」
拡大するインタビューに答える志賀忠重さん=2020年12月17日午後3時14分、福島県いわき市平、長屋護撮影
――当初のメンバーは20人ほどでした。
「身内のほかに、避難所で炊き出しを一緒にした仲間も参加してくれ、5、6回するうちに目標を決めることになった。やるなら世界一。(奈良県の)吉野山の桜は3万本。じゃあ10万本と考えたが、(中国・福建省生まれの世界的な現代芸術家)蔡國強(ツァイグオチャン)さんから中国では99に『無限』や『永遠』といった意味があると聞いていたので、千本引いて9万9千本にした」
――「いわき万本桜プロジェクト」と名付け、当初の植樹のペースは年間1千本ほど。その後は減って、今のペースでは250年かかります。
「プルトニウムの半減期は2万…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル