ふるさと納税の不指定に対する取消訴訟では最高裁による逆転判決で泉佐野市が完全勝利し、総務省も泉佐野市をふるさと納税の対象自治体として指定することを決定しました。これで、ふるさと納税に関しては一段落と言えます。 しかし、泉佐野市と総務省との闘いはまだ終わっていません。実は、泉佐野市は、特別交付税が前年比で90%減額されたことについて、国を相手に取消訴訟を提起しているのです。 特別交付税が減額されたのは、泉佐野市を含む4市町村だけで、この4市町村はふるさと納税の指定を外された4市町村です。ふるさと納税で国の指導に従わない自治体に対しては徹底的に制裁を加えるという総務省の姿勢が伺えます。果たして、この争いはどちらが勝つのでしょうか。(ライター・メタルスライム) ●国の裁量でコントロールできる「特別交付税」が大幅減額 特別交付税は、地方交付税の一部で、普通交付税を補う目的で設定されているものです。普通交付税が行政を運営する上で必要なお金を補うために支払われるものであるのに対し、特別交付税は普通交付税で措置されない個別、緊急の財政需要に対する財源不足額を補うために交付されるものです。 普通交付税がある程度厳格な算定式であるのに対し、特別交付税の配分方法は法律に規定がなく、省令すなわち行政機関が勝手に決めることができる仕組みになっています。災害などに柔軟に対応するためという大義名分のもと、国の裁量で自由にコントロールできる内容となっています。 しかし、実際には、個別緊急的とは言え、各自治体には毎年同じような額が交付されており、自治体としてはそれを見込んで行政運営を行っています。泉佐野市でも特別交付税として交付される予定だった3億円は、地域の中核病院である「りんくう総合医療センター」の運営費に充てる予定でした。 ところが、泉佐野市の令和元年度の特別交付税の支払額は、約5,300万円で、前年度と比較して約4.4 億円も減少しています。その原因は、特別交付税の算定については「ふるさと納税の収入を加味する」という突然の省令改正にあります。 ●総務大臣は「ペナルティではない」と言うが・・・ 泉佐野市の千代松大耕市長は、「ふるさと納税を巡って総務省を提訴したことへの嫌がらせだ」と強く批判しています。泉佐野市は、すぐに総務省に対して不服審査の申し立てを行いましたが、特別交付税の交付額の算定に対する不服は審査の対象にはならないとして却下されています。そのため、今回、提訴に踏み切ったわけです。 当時の石田真敏総務大臣は「財源配分の均衡を図る観点から行ったもので、過度な返礼品などを贈る自治体へのペナルティーという趣旨ではない」と述べていますが、明らかに、ふるさと納税で指導に従わない自治体にペナルティを課したものと言えます。このような制裁を見せつけられると、他の地方自治体は、「国には絶対逆らえない」と思ったことでしょう。 しかも、ふるさと納税の指定外しと同様に、後になって算定基準を変えるという法の不遡及の原則に反するものです。ふるさと納税の収入分を加味して算定するように制度を変更するなら、省令改正後のふるさと納税の収入に対して行われるべきであり、過去の収入について後になってから加味するというのは法治国家として許される行為ではありません。この点も大きな問題と言えます。 ●地方をコントロールするための仕組みになっている 今回の騒動以前から「地方交付税」には問題があると言われていました。地方交付税は、地方の固有の財源であり、本来地方の税収入とすべきものです。しかし、自治体間の調整を行う必要性があることから、国が変わって徴収し、それを合理的に再配分するものとされています。 つまり、東京都などの都市部と地方の過疎地域では税収に差があるので、それを調整する必要があるというわけです。確かに、どんなに小さい自治体であっても最低限必要なお金は確保しなければならないという要請があるのは事実です。 ただ、地方交付税の額は、2020年度で16兆6000億円にもなります。これだけ巨額な金額が調整として使われるというのは不自然としか言いようがありません。つまり、東京都などの不交付団体を除いては、ほとんど自律していない地方公共団体しかないということです。 本来のあるべき姿は、地方自治体が地方税によって賄われることが基本であり、どうしても不足する一部の地方自治体にのみ調整として補填がなされるというものであるべきです。自治体が金銭的に自律できていなければ、国に対して対等な関係でいられるわけがないからです。地方分権を目指すのであれば、その旗振り役である総務省が地方の財政的自律を促すべきです。 ところが実際は、国は地方をコントロールしたいため、財源を握り、それを餌にして地方に服従させているという実体があります。また、過疎地域の自治体などでは、地方交付税があるため、税収を増やそうという意識が低く、その努力もしなくなります。財源がなければ企業誘致や観光誘致を行い、税収を確保するよう努めるべきですが、地方交付税があるので、それをする必要がないわけです。 地方分権を進めるつもりなら、もっと国税の税率を下げて、地方税の税率を上げるべきであり、地方自治体が税収を確保できるよう税の移譲をするべきです。地方交付税を完全になくすことはできなくても、地方交付税の額を減らし、「地方交付税を受けることが当たり前」ということを無くしていかなくてはなりません。 ●ふるさと納税で地方自治体は税収を確保することに目覚めた ふるさと納税は、自治体間の過度な競争を生み、良くないと批判する人もいますが、あれほど自治体が頑張って施策を行っている例はありません。いかに財源を確保するかを各自治外が真剣に取り組むよい契機になったことは確かです。 法改正により、返戻品の額が3割に制限されることになったことから、かつてのような返戻品の豪華さを競うことはなくなるかもしれませんが、創意工夫してその自治体にしかできないことを企画するなど新しい取り組みがなされるようになるかもしれません。 地方交付税の存在は、地方自治体の金銭的自律を阻害し、やる気のない自治体ほど多くの地方交付税を貰うという仕組みになっています。自治体間の調整としての地方交付税は必要だとしても、最低限の調整に抑え、ふるさと納税で培ったノウハウを使いながら、各自治体が主体的に財政確保できるような仕組みにしていかなければなりません。 ●国の暴走を止めるために地方自治体は闘うべき 泉佐野市が起こした今回の裁判では、特別交付税の支給基準の是非が争われると思われます。総務省が恣意的に4市町村を減額したと認定されれば、裁量権の逸脱・濫用として違法であると判断される可能性はありますが、財政上のことなので、広い行政裁量が認められるとして司法審査が回避される可能性もあります。その点では、ふるさと納税での不指定の取消訴訟よりハードルは高いと言えます。 しかし、国の一方的な不当な措置に対しては、毅然と法的手段をとっていくことが大事だと思います。ふるさと納税の指定に関する泉佐野市の取消訴訟の結果を受けて、他の3市町村は棚ぼた的に指定を受けることが出来るようなりましたが、泉佐野市だけが悪者になり、訴訟負担を負うというのは不公平です。司法判断を得ることが国(行政)の暴走を止める唯一の手段なので、他の地方自治体も国の対応が理不尽と思うなら、しっかり法的措置を取っていくべきではないでしょうか。 <参考資料> 特別交付税減額に対する訴訟提起についての市長コメント
Source : 国内 – Yahoo!ニュース