兵庫県尼崎市の路上で指定暴力団神戸山口組の古川恵一幹部(59)が射殺された事件は、社会に大きな衝撃をもたらした。使われた凶器は軍用の自動小銃で、30発を連射したとみられているからだ。もはや武器ではなく兵器と呼ぶべきものが日本の「闇社会」に広がっているのか。(岡田敏彦)
■拳銃ではなく「軍用」
事件は11月27日午後5時すぎに発生。愛知県江南市の元山口組系幹部、朝比奈久徳容疑者(52)が古川幹部に向けて自動小銃を乱射、軽自動車で逃走したが、京都府警が府内で確保。銃を所持していたとして銃刀法違反で現行犯逮捕した。調べに対し朝比奈容疑者は「全部一人でやった。30発くらい撃った」と供述しているという。
重要なのは、この30発を連射したという点だ。これまでの暴力団同士の抗争で「ヒットマン」が拳銃を数発撃つという場合に比べ、危険性は極めて大きい。これは用いられた銃が持つ特性によるものだ。
事件で用いられたのは米軍が採用し長年使用している「M-16」という自動小銃の改良型だった。
■戦場の武器
一般には銃と一口に言うが、いくつもの種類がある。自動小銃とは第二次大戦時に出てきた比較的新しい銃だ。それまでは火縄銃のような長い外観を持つライフル銃、いわゆる小銃と、連射のできる機関銃、そして刑事ドラマで見られるような拳銃の3種が主だった。一般的に小銃という文字からは「小さな銃」を想起するが、江戸時代には大砲を「大銃」と呼んでおり、大砲よりは小さい「小銃」の呼び名だけが残ったものだ。
各国陸軍では歩兵が持つ小銃が主流だった。小銃は銃身が長く、狙いの精度も比較的高いが、一発撃つごとに次の弾を手動で込めなくてはならない。ボルトアクションなどといわれるタイプだ。
一方、機関銃は連射ができるため威力が大きい半面、重いうえに撃った際の反動も激しい。歩兵が一人で抱えて撃つのは現実的ではなく、三脚に据えたり、車両に据え付けるものだった。例えば第二次大戦時のドイツ軍の代表的な機関銃「MG34」は重さ約12キロで、持ち運びはともかく、人が持って撃っても反動を支えきれず、銃が暴れ、弾は明後日の方向に飛ぶ。このため銃口付近に二脚をつけたり、大型の三脚に据える運用が行われていた。
■自動小銃とは
この2つの「隙間」を埋めようと開発されたのが自動小銃だ。自動で次弾を装填(そうてん)する小銃、という意味だ。引き金を引き続ければ連射ができ、反動は小さく、一人で構えてライフルのように使える軽い銃だ。
実は、これ以前に軽機関銃というものが開発され広まった。ところが重量や反動を軽くしようと拳銃の弾を用いたため、射程が短く、威力も小さいのがネックとされ、連射できるメリットは大きくなかった。この短所を補うため、拳銃の弾ではなく、より大きな「小銃の弾」を連射できるようにしたのが自動小銃だ。
現代では自動小銃という名に加え突撃銃、あるいはアサルトライフルとも呼ばれる。その始祖は第二次大戦中にドイツが開発した「StG44突撃銃」で、続いてソ連が「AK47」(いわゆるカラニシコフ銃)を開発し、実用性が認められた。
一方、米軍では自動小銃の採用は遅く、朝鮮戦争後の1950年代後半から計画が立ち上がった。当時軍用機の設計・開発の大手だった米フェアチャイルド社の重機開発部門が「AR-15」を開発。空軍警備部隊に「M-16」という名前で採用され、その後は陸海軍、海兵隊も採用。米軍を代表する自動小銃となった。米国と同盟関係にある国の軍隊などにも配備され、北大西洋条約機構(NATO)の加盟諸国などが有事の際に弾薬の相互提供を可能とするため、「5・56ミリNATO弾」と呼ばれる統一基準の弾が使用されている。
■流出元は…
犯行に用いられたのはこのM-16の「改良型」とされるが、日本で暴力団構成員が持っているのはどういうわけか。
M-16はベトナム戦争で南ベトナム軍に大量に供給されたが、同軍の敗戦により東南アジア各国に流出した。また韓国や台湾でもライセンス生産されており、政情不安定な時期の諸国家から流出した恐れも否定できない。より問題なのは中国が1980年代から生産したとされるコピー品「CQ311」だ。
本物同様に5・56ミリNATO弾を使用する。M-16には多くの改良型(派生型)が次々と開発されたが、中国もこれを追うように改良型をコピーし量産した。中国製の偽物M-16はアフガニスタンのほか東南アジアの武装勢力やゲリラに使用されているとされる。
こうした軍用の自動小銃の危険度が拳銃に比べ非常に高いのは、威力が高い弾を連射できる点にある。
実はこのM-16は、米国では民間人向けにも販売されている。連射機能を廃した民間版「AR-15」が手に入るのだ。
■フルオートの恐怖
軍用の自動小銃は一般的に射撃方式に3つの方法があり、レバーで切り替えられる。ひとつは単発で、引き金を1回引くと1発発射できる。2発目を撃つには、引き金から力を抜き元の位置に戻さなくてはならない。引き金が戻ると次弾が自動的に装填(そうてん)されるため「セミオート」と呼ばれる。
2つめは連射で、「フルオート」とも言われる。引き金を引いている間、弾が次々と発射されるもので、弾切れになるまで連射できる。一般的な機関銃のイメージと同様のものだ。
3つめが「3点バースト」と称されるモードで、引き金を引き続けると3連射でいったん発射動作が終了する。無駄撃ちを防ぐことなどが目的のモードだ。
見逃せないのは、民間で銃の所持が認められている米国でも「フルオート」の銃は禁止されていることだ。米国で広く出回っているAR-15もフルオート機能は除かれている。
もしフルオートが可能なら…。その恐ろしさを示したのが2017年10月のラスベガス銃乱射事件だ。
犯人はホテルの高層階から地上の音楽祭会場へ向け銃を乱射し、58人が死亡した。この犯行に使われたのは、連射できないはずのAR-15に、後付けの改造部品(バンプ・ファイア・ストックと呼ばれる。約100ドル=1万1千円)を装着し、擬似的にフルオート射撃を可能としたものだった。この事件を受け、米司法省は連邦法でこうした改造部品の製造や所持、販売を禁止した。
尼崎の事件での「30発連射」は、こうしたフルオートでの射撃を行った可能性が高い。M-16系の弾倉(マガジン)でよく用いられるのが30発入り弾倉なので「30発ほど撃った」という供述とも矛盾しない。
■重武装化
平成24年には特定危険指定暴力団・工藤会(北九州市)関係者の保有する倉庫から、拳銃や銃弾に混じって旧ソ連製の対戦車ロケット砲「RPG26」が発見、押収されたほか、15年には指定暴力団住吉会系幹部が借りていた東京・新宿区の倉庫から、第二次大戦時のトンプソン軽機関銃(米軍)やMP40軽機関銃(ドイツ軍)、手榴(しゅりゅう)弾3個やダイナマイト5本が見つかり押収される事件もあった。
18年には福岡県で、当時ともに指定暴力団だった九州誠道会(当時、現浪川会)と道仁会の抗争で、AK-47自動小銃や手榴(しゅりゅう)弾が使われるなど、暴力団の重武装化、あるいは武器の「兵器化」の兆候が明らかになった。
近年は目立った同様の事例はなかったが、尼崎での連射が示すように、暴力団の武器が「兵器化」する動きは収まっていないようだ。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース