21日投開票の参院選で、自民党と農協が再接近している。与野党一騎打ちの佐賀選挙区(改選1)では、農協系の政治団体が、3年前の「自主投票」を転換し、自民候補の推薦を決めた。野党への失望や、自民側からの懐柔による両者の関係改善は、全国の1人区で自民候補が優位に立つ要因ともなっている。(中村雅和)
「野党に期待したこともあったが、勝負にならない。いろいろあったが、(自民候補を)推薦した。JAグループ総力を挙げてしっかり支える!」
6日午後、佐賀県白石町にあるJAさがの施設で、JAグループの政治団体、佐賀県農政協議会(農政協)の金原寿秀会長は、きっぱりと語った。自民現職、山下雄平氏(39)の公示後最初の決起大会だった。
会場には農政協幹部や地元農家も大勢駆けつけた。来賓として出席した自民党農林部会長の野村哲郎参院議員は「3年前は推薦をいただけなかった。ご苦労もあったと思うが、推薦は本当にありがたい」と謝辞を述べた。
山下氏も「農業を次世代につなげる」と訴えた。陣営関係者は「最初の決起大会を、JAと一緒にやれたことに大きな意味がある」と語った。
同じ日、国民民主党の元職、犬塚直史氏(64)の応援に入った同党の玉木雄一郎代表は、佐賀特産のアスパラガス農園を視察し、農家と意見交換をした。
■場外乱闘ばかり
佐賀県では、平成27年の知事選をきっかけに、自民党と、同県最大の政治団体、農政協の関係が悪化した。
党本部と官邸が擁立した候補者に、農政協や同党の県議、首長の一部が反発し、対抗馬として山口祥義氏を立てた。結果は、山口氏が勝利した。
続く28年の参院選、29年の衆院選とも、佐賀の農政協は「自民党農政に対する農家の批判が根強い」として、自民候補の推薦を見送り、自主投票とした。知事選に加え、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や農協改革への反発だった。29年の衆院選では、旧民進党系の候補が、佐賀の全2選挙区で勝利した。
ただ、自民との距離が開くにつれ、農政協内部では、発言力低下への懸念や、野党への不満が高まった。金原氏は周囲に「農政関連の国会質問を頼んでも、関係ないことばかりに時間を使って、場外乱闘ばかりやる。『政権奪取』と繰り返すが、裏を返せば、政権を持ってないと何もできないと自白しているようなもんだ」と漏らしていた。
29年8月、潮目が大きく変わった。
全国農業協同組合中央会(JA全中)の会長に、JA和歌山中央会の中家徹氏が就任した。自民党農林部会長も、小泉進次郎氏から野村氏に替わった。
和歌山が地元の二階俊博幹事長、農林族が多い竹下派の竹下亘会長を加えた4者が中心となり、関係修復に取り組んだ。
「互いに馬が合い、あうんの呼吸で、事を進められる」(竹下派議員)。自民と農協は、かつての蜜月関係を取り戻しつつある。
佐賀県農政協は30年12月、参院選での山下氏推薦を、全会一致で決めた。
変化は九州に限らない。例えば東北6県の農協系団体は、28年参院選では、福島を除く5県で自主投票だった。今回は全6県で自民候補を推薦した。
農協からの支援を取り戻した自民は、農村部が多い1人区で強さを見せる。
■全面広告
ただ、団体の推薦が農家一人一人の投票につながるかは、予断を許さない。
今後加速する日米貿易交渉で、日本政府がトランプ米大統領の要求を、どこまではねつけられるか-。農業関係者は危惧する。
農家の不安を払拭しようと、自民党は公示翌日の今月5日、日本農業新聞に「生産現場の声を反映します」と題した全面広告を打った。
6日の決起集会に参加した佐賀県の若手農家は「安定した安倍政権以上に、対外交渉がうまくいく政権はないと、頭では理解はできている。それでも、農家に対して厳しい姿勢をとり続けてきたことへの違和感はぬぐえない。投票先は最後まで考えます」と語った。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース