虐待を受けているのでは、と近隣住人が疑っていた高齢男性が昨夏、亡くなった。生前、警察や自治体は通報を受け、本人や家族から繰り返し事情を聴いていた。数カ月後、遺体の傷痕から暴行死の疑いが強まり、警察は一転、介護を担っていた息子を傷害致死の疑いで逮捕した。救うことはできなかったのか。
死亡したのは大阪府高槻市の植村三朗さん(当時78)。妻(80)と長男の清程(きよのり)被告(49)=傷害致死罪で起訴=の3人(いずれも無職)で、マンションの一室で暮らしていた。
府警捜査1課によると、昨年7月21日午後7時ごろ、三朗さんが床にひざを立てた状態でベッドの上に顔を突っ伏し、息をしていないのを清程被告が見つけ、妻が110番通報した。病院に運ばれたが、翌22日に死亡が確認された。複数の骨折やあざの痕が見つかったが、司法解剖で死因は特定できなかったという。
三朗さんは2018年に脳梗塞(こうそく)を患い、半身がまひしていた。リハビリを続け、自力で歩けるようになったものの、よく転んでいたとされる。介護は妻と清程被告が担い、2人は三朗さんのけがについて、「転倒による傷」と捜査員に説明していたという。
府警は事件性を見極めるため、専門医に負傷箇所の精密検査を頼んだ。強い衝撃で筋肉の組織が損傷する筋挫滅(きんざめつ)が尻の右側に確認され、背中側の肋骨(ろっこつ)の多発骨折と相まって出血性ショックが起きたことが、主な死因として考えられるとの分析結果を得た。
さらに、複数の医師に見解を求め、筋挫滅は自分で転倒しただけではできないことを確認した。強い外力を加えられるのは清程被告以外にいない、と府警は判断し、今年2月、傷害致死容疑での逮捕に踏み切った。
清程被告は「やっていません」と否認したが、大阪地検は3月に同罪で起訴した。起訴状によると、昨年7月上旬から同月21日までの間、自宅などで三朗さんの頭や体に強い打撃を与えたり圧迫したりする暴行を加え、筋挫滅や多発肋骨骨折などの傷害を負わせ、同22日、出血性ショック、急性腎不全、左肺気胸により死亡させた、としている。
本人は処罰化求めず、事件化見送り
一家をめぐっては昨年5月から7月にかけて、複数の近隣住人から「怒鳴り声や大きな物音がする」などと虐待を疑う110番通報が寄せられ、高槻署員が8回、自宅で事情を聴いていた。
府警人身安全対策室によると、…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル