就職活動中の学生らが匿名で使うSNSの書き込みを調べて、企業が採用、不採用を決める動きが広がっている。こうした「裏アカウント」の調査をどう考えればよいのだろうか。若者のネット問題に詳しい兵庫県立大准教授の竹内和雄さん(56)に聞いた。
――この問題をどう考えていますか。
調査の道義的な是非は今後決まっていくと思いますが、違法な手段でこっそり非公開のアカウントに無理やり入っていく、というわけではありませんので、こうした調査はなくならないと思います。
SNSは公開が前提で、そこで書いたことは誰かに見られる可能性がある。それがSNSだという認識が必要でしょう。
これぐらいつぶやいてもよいだろう、みんなやってるから。就活生側はそんな軽い気持ちで投稿しているかもしれませんが、企業の選考は思っているよりはるかに厳しいです。
企業側「定年まで雇用したら3億円」
――採用企業側はどんな考えなのでしょうか。
こうした調査を依頼している企業の幹部に聞くと、「定年まで雇用したら3億円以上かかるので、入社前にしっかり調べるのは当然だ」と言っていました。
最終選考に残った志望者を対象に調べたら、8割超で問題のある投稿が見つかった年があったそうです。一般論と前置きした上で、「同じ評価の志望者ならSNSで問題を起こすリスクのある人より、ない人をとりたいと考えるのが普通だろう」と話していました。
例えば「飲み会でゲロを吐いた」とか、「あいつむかつく」とかいった書き込みは、学生側は大したことがないように考えるかもしれないが、わざわざSNSに書く必要のないことです。企業幹部は「入社後に同じような投稿をすれば、世間の企業イメージは悪くなる。こうした投稿は論外だ」と言っていました。
一企業の一幹部の見解ですが、こういう考えがあることは少なくとも知っておくべきです。
――若気の至りをネット上でいつまでも追及するのはどうなのでしょうか。
分かります。昔は学生時代の追い出しコンパとか、服を脱いだり池に飛び込んだり眉をひそめることをしても、就職したら一転してまじめな顔をして働けました。企業側も大目に見て許容する風潮がありました。
若気の至り、一生残る
ただ、今は若気の至りを写真に撮られてSNSに投稿されたら、一生残ってしまいます。「そんなリスクのあることをする学生」と思われても仕方ありません。時代が変わったことを理解しなければなりません。
本人は若気の至りでやったことかもしれませんが、企業はそう判断してくれません。同じ仲間として一緒に働いてほしいか、3億円の価値があるのかどうか、でしか見ていない。企業側に選択権がある現実を理解することが大切です。
――具体的な事例はありますか。
ネットで知った事例ですが、体調不良と言って大学のゼミを休んだ学生が、実は遊んでいた様子を写真付きでSNSに投稿し、ゼミの教授が気付きました。教授がSNSに叱責(しっせき)の言葉を書き、一気に炎上状態になってしまいました。実名でのSNS投稿でした。
私が関わった事例では、大学に推薦入学が決まった高校3年生がつらい思いをしました。友だちとお祝いの会の動画をインスタグラムのストーリーズにあげました。お酒がそこに映り込んでおり、その映像を保存、拡散され、高校の先生たちが知るところとなりました。
――学生側にはそうしたリスクの自覚はないのでしょうか。
少し前までは私が話題に出しても、「都市伝説や」「デジタルホラーや」って信じないことが多かったですが、紹介できる事例が増えてきて、やっと「先生はよ言うて」と焦り出す学生が増えてきました。「都市伝説ちゃうねん。現実や」としっかり伝えるようにしています。
――この問題の本質は何でしょうか。
SNSという、試行錯誤中で無秩序になりがちな新しいメディアを、的確に使いこなすリテラシーの問題だと思います。
文部科学省が定める学習指導要領では、教育課程全体で、メディアリテラシーやモラルを含めた情報活用能力を育てる重要性がうたわれています。しかし実際は、トラブルに巻き込まれる若者は多く、十分には教えられていないのが現状です。学校教育だけでなく、地域、家庭、社会全体の課題として考えるべきです。
学生へ「今の書き込み、何年か後に誰かが見る」
――どうすればよいのでしょうか。
学生に伝えたいのは、「あなたの今の書き込みは、何年か後に誰かが見ると思って書いた方がよい」ということです。投稿を進学や就職の時に使われたら困ります。
投稿するかの判断のポイントは、「入試や就活の担当者に読まれたくないことは書かない」ことです。身近な例では、恋人や結婚相手の親に読まれて困るような投稿はやめた方がよいと思います。
小学生にはもっと具体的に、「おじいちゃん、おばあちゃんが読んで悲しくなることは書かない」と教えています。未来の自分のことを考えて、小学生のうちから考えるべき課題だと思います。(聞き手・矢島大輔、市原研吾)
たけうち・かずお 大阪府内の公立中学校で20年間、生徒指導などを担当。2012年から兵庫県立大准教授。各地で開催されている、小中高生が使い方を話しあう「スマホサミット」に関わる。携帯電話の学校持ち込みに関する文部科学省の有識者会議の委員を務めた。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル