熊本県上天草市龍ケ岳町の漁港で今年2月、86歳の車いすの男性が岸壁から誤って海に転落した。救出したのは近くにいた77歳の男性。自身の持病も忘れてとっさに助けに向かった。熊本県警上天草署が8日、水難救助した同町の橋本富広さんに感謝状を贈った。
平年に比べると少し肌寒いが、晴天に恵まれた日だった。2月26日の午後、橋本さんは近所の漁港に散歩に出た。岸壁の方をみると、やはり漁港の近くに住み、顔見知りの電動車いすに乗った男性がいた。
魚釣りをしている人たちを眺めていると「バシャン」と音がした。高さ約3メートルの岸壁から、車いすごと男性が転落したのだ。
橋本さんは男性が落ちた方向に急ぎ足で向かい、岸壁の階段を駆け下りた。水面には横向きになった男性の顔が見えた。
幸いにして、男性が転落したのはスロープ状になっている水深の浅いところだった。橋本さんはくるぶしを海水にひたしながら、男性の手を取り、階段まで引き上げた。
「おーい」と助けを求めると、周囲にいた人々が駆け寄ってきたり、消防に通報したりした。男性は救急車で病院に運ばれたが、大きなけがもなく無事だったという。
橋本さんには持病があり、体内にはペースメーカーが入っている。だが、男性が転落したときはそのことを忘れ、とっさに体が動いた。階段を駆け下りるとハァー、ハァーと息が荒くなったが「助けなければと、必死だった」と振り返る。
男性とはその後も、道ばたですれ違う。「おかげさまで、ありがとうな」「よかったなー」。そんな会話を交わすという。
感謝状を贈った上天草署の福岡淳一署長は「寒い時期だったにもかかわらず、人命第一でお助けいただき、ありがたい」「ご自身の持病もかえりみず、頭が下がる思いです」と、橋本さんの行動をたたえた。(吉田啓)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル