石川県能登地方で震度7を観測した地震から一夜明けた2日正午、大規模な火災が起きた輪島市河井町に朝日新聞記者が入った。
200棟以上が焼けたとされる河井町には観光名所「朝市通り」があった。輪島港から100メートルほど内陸に入った通りには、新鮮な地魚や野菜、輪島塗の箸などの伝統工芸品などが並び、年間数十万人もの観光客が訪れていた。
それが今回の地震後の火災で跡形もなくなっていた。所々に鉄筋コンクリートの建物や鉄骨が焼け残る以外、見渡す限り数百メートルが焼け野原になっていて、日本海まで見渡せた。
ところどころに数人の消防士が立ち、ホースで水をかけ続けていた。白い煙が立ち上り、灰があたりを舞った。煙たさで息苦しさを感じた。時折日本海から吹き付ける真冬の北風が真夏の熱風のように感じられた。
家が立っていたとおぼしき場所の前に一人の老人が立ちすくんでいた。谷川寛允(ひろすけ)さん(88)。声をかけると、伏し目がちにポツリポツリと話をしてくれた。
金沢市から帰省していた娘と妻と3人で新年を迎え、ゆったりとした時間を過ごしていた。そんな時、激しく揺れた。津波が来ると聞いて慌てて避難所をめざした。
河井町にほど近い避難所にいると、町が大変なことになっていることがすぐにわかった。ひっきりなしに行き交う消防車のサイレンの音を聞いても、どうすることもできなかった。
夜が明けて、火の手が下火に向かっていることを知り、家の様子を見に帰った。何もかもが燃えていた。
最後に記者にこう語った。「朝市はにぎやかで楽しい街だった。元通りのようになるのか」(西崎啓太朗)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル