世界自然遺産・知床のある北海道羅臼町で6月27日、民家の敷地に侵入したヒグマが飼い犬3匹を殺傷した問題で、このヒグマと、2018~19年に同町内で飼い犬を襲ったヒグマが、同一の個体であることがDNA鑑定でわかった。このヒグマは犬を獲物だと覚えていたとみられるが、昨年は現れなかった。2年ぶりに人里に現れたのには、人間が直面している禍(わざわい)もかかわっていそうだ。
27日に同町海岸町で襲われた犬の体に付いていたヒグマの唾液(だえき)を北海道大学で鑑定したところ、過去の資料とDNAが一致した。
海岸町の現場から約3キロ離れた同町岬町では、29日午前9時半ごろにヒグマ1頭がハンターによって射殺された。ただ、犬を襲ったヒグマより体が小さいなどの特徴により、町は別の個体と判断した。
犬を襲ったヒグマが、なお町内にとどまっている可能性がある。夜間に飼い犬を外でつないだままにしないことだけでなく、生ごみの管理、魚の適正な干し方のさらなる徹底を、町は改めて町民に呼びかけた。
知床半島は、ヒグマの有数の生息地だ。
その南側に位置する羅臼町では、ヒグマの出現によって町職員らの出動が18年度は215回、19年度は268回に及んだ。捕獲頭数も18年度が12頭、19年度が13頭に上った。
両年度には、ヒグマが計4軒の民家の敷地に現れ、5匹の飼い犬を殺す「連続犬食い事件」が起きた。このヒグマは犬を獲物だと認識していて、再び人里に現れる可能性があり、重大な人身事故につながるおそれもある。
同町のコンブ漁の番屋などが点在する北部の漁業地区と市街地域には、ヒグマよけの電気柵が整備されている。ヒグマの出現数の増加や連続犬食い事件を受け、20年度からは、新たに町内会単位でやぶの草刈りも始めた。ヒグマの隠れる場所をなくし、発見しやすくすると同時に、出現を防ぐためだ。
これが奏功して、20年度は、ヒグマの出現による役場職員らの出動数が167回、捕獲頭数も5頭へと減っていた。ところが、今年度は状況が一変した。捕獲頭数こそまだ2頭だが、出動数は1日までに、すでに107回を数えた。
町によると、背景に考えられるのが「コロナ禍」だという。
昨年は6月に入って早々に草刈りを始めた。ところが、今年は北海道全域に出された新型コロナ対応の緊急事態宣言が終わるのを待ったため、6月下旬となった。さらに、草が伸びるのが例年より早いという。
町はこうした状況の変化も、ヒグマの出現数の増加や、同じヒグマの再来につながっているとみている。(大野正美)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル