■コラム「社会季評」 臨床心理士・東畑開人さん
先月、内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が設置された。英国の「孤独担当相」の日本版だ。誰も信じられなくなった孤独な大臣が、氷で覆われた執務室で悲しそうにハンコをついている。ついついそんなSF的な風景を想像してしまうのだが、これはシリアスな政策だ。
背景にあるのは、つながりの希薄化だ。私たちは今同じマンションに住んでいても、お互いのことを知らないし、むしろあまり知りたくない。無理やり誰かと付き合うのは面倒くさい。元気なときはそれでいいのかもしれない。自由だし、楽だ。だけど、ケアを必要とする高齢者や子ども、障害者、生活困窮者は、それだと孤立してしまう。そうやって付き合いがなくなり、孤独になると、自殺やうつをはじめとした様々な心身の問題が引き起こされる。これに国家が本腰を入れて取り組もうとしたのが、英国の孤独担当相であり、わが国もそれに続いた。
とうはた・かいと 1983年生まれ。臨床心理士。十文字学園女子大学准教授。著書「居るのはつらいよ」で大佛次郎論壇賞受賞。
違和感を持つ人もいるかもしれない。孤独は良きものではないか。そういう声が聞こえてくる。実際、五木寛之の著書「孤独のすすめ」をはじめ、孤独の豊かさを説く本は少なくない。わずらわしい人付き合いから離れ、自分と向き合う。すると、個が磨かれ、成熟がもたらされる。そういう立場からすると、政府が孤独という内面的でプライベートな問題に介入することには疑問符がつくことだろう。
ここには誤解がある。確かに「…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル