22日午後、広島市の繁華街で黒山の人だかりができた。目当ては、新元号「令和」発表で時の人となった官房長官の菅義偉だ。街宣車から姿を現すと、聴衆から大きな歓声が上がった。
「この新しい時代に現職2人に向かって挑戦している。広島県一円に名前を広めてほしい」
菅は改元にからめ、隣に立つ自民党公認の新人で元県議の河井案里への支援を呼びかけた。
陣営関係者は今回の街頭演説に党県連は関わっていないと説明し、「これだけ人が集まるのはさすが官房長官だ」と手応えを話す。
河井の夫は党総裁外交特別補佐の河井克行で、菅や首相(党総裁)の安倍晋三と良好な関係にある。安倍が地元・山口の秘書を広島に派遣するなど、首相官邸の全面的な支援を受ける。
自民党は広島選挙区(改選数2)で現職の元国家公安委員長、溝手顕正に加え新人の河井を擁立した。広島での2人擁立は21年ぶりだ。2議席独占へと一丸になりたいところだが、現実は身内の“中傷合戦”の様相を呈しつつある。
■「いじめ」合戦
「党本部によるいじめという印象を持っている」
5月25日、広島市内で開かれた溝手の事務所開きで党県連会長の参院議員、宮沢洋一は党による河井擁立に疑問を呈した。地元県議や国会議員の大半が溝手支持でまとまっている上、過去に2人擁立した際は当選1人にとどまったからだ。
一方、河井は5月末に「溝手さんにいじめられている」と幹事長の二階俊博のもとに駆け込んだ。今月2日の河井のパーティーでは元厚生労働相の塩崎恭久が「いじめられているのは河井さんだ」と同調した。地元選出の国会議員は「住み分けというが、実際は票の奪い合いだ」と話す。
■岸田派のおひざ元
広島は岸田派(宏池会、49人)の牙城だ。領(りょう)袖(しゅう)で党政調会長の岸田文雄をはじめ6人の国会議員を抱える。2人目の擁立には2議席独占で党勢を拡大したい安倍の意向があるが、派内には「なぜ2人目を出すのか」との不満が根強い。
茨城と京都、静岡も2人区だが、早々と2人目の擁立は見送られている。この21年間、自民党が2人区を独占した実績はない。
指摘されるのが安倍と溝手の確執だ。溝手は第1次安倍政権の閣僚だった平成19年参院選で党が大敗した際、「首相の責任」を問うた。野党時代の24年には安倍を「過去の人」とも言い放った。このため安倍周辺は、今回の事態を「溝手の自業自得だ」と突き放す。
今月18日夜、安倍は都内で開かれた8年初当選の議員の会合に姿を見せた。菅や河井克行、複数の派閥事務総長らも顔をそろえた席で、安倍は「事前調査で河井は岸田派議員(溝手)に3倍の差をつけられている」と話したという。出席者からは、河井を支援しようという声が上がった。
■ポスト安倍を左右?
ポスト安倍の一人である岸田にとり、安倍からの禅譲は次期首相に向けた有力な選択肢だ。2人は今月2度会談したが、安倍は河井支援を求めたとされる。一方、岸田派内には「そんなことをしたら面目は丸つぶれだ」との声がくすぶる。
河井はポスト安倍に急浮上する菅に接近する一方、「地元には岸田首相を望む声が強い。2人議席を確保することがその近道だ」と秋波を送る。しかし今回、溝手が落選する事態になれば、岸田はポスト安倍どころか派内での求心力自体を低下させかねない。
岸田は周囲に漏らす。
「人(河井)のことをいろいろ言うつもりはない。オレは溝手をやるだけだ」=敬称略
(田村龍彦、中村智隆)
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参院選は7月4日公示、21日投開票の日程で行われる見通しだ。注目の選挙区に焦点を当てる。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース