2カ月半におよぶ首都圏の緊急事態宣言が明けた22日、東京都心の桜は満開となった。新型コロナウイルスの再拡大を防ぎながら、にぎわいを取り戻せるのか――。花見客でにぎわう飲食店も、観光復活に期待する旅行業者も、笑顔満開とはいかない。
東京都目黒区の目黒川沿いは、五分咲きのソメイヨシノを楽しむ人々でにぎわっていた。「花見はお控えください」と書かれた看板が並び、ベンチには座れないようにロープが張られている。それでも立ち止まってビールや料理を楽しむ人がいた。
「緊急事態宣言も終わったし、桜くらい見にいってもいいかなと」。専門学校に通う女性(21)は、友人2人と桜並木の下で写真を撮っていた。宣言期間中は飲み会もせず、家にこもる日々が続いた。この日も飲食はせず、「感染に気をつけながら、できる範囲で楽しみたい」と話した。
川沿いの飲食店にとって例年、この時期はかき入れ時だ。宣言解除で、時短要請は午後8時から午後9時に延びた。
近くにあるバーの60代の女性店主は「花見の時期に間に合ってよかった」と喜んだ。宣言が出た1月から店を休業し、3月中旬から午後8時閉店で営業を再開。22日からは午後9時まで営業するといい、「1時間は大きい。『花見がてら1杯飲もう』という気持ちも高まるのでは」と期待を寄せる。飛沫(ひまつ)防止用のついたてを客席に置くなど対策はしており、「なんとか花見という日常を取り戻したい」と話す。
ジンギスカンが名物の「中目黒ひつじ 目黒川店」は宣言が延長された3月8日から時短要請には応じず、午後11時までの営業を続けている。昨春の売り上げは9割減。1階や2階から桜を眺めることができ、午後9時以降も盛況だ。店主の西原宏視さん(33)は「1年の売り上げを左右するこの時期に時短に応じるのは難しい」と話す。
一方で、イタリア料理店の男性店主(52)は「3月に入ってから明らかに人出が増えた。まだ宣言を解除するべきではなかった」と不安そうに話す。高血圧で、感染すれば重症化の恐れがある。テイクアウト販売に限定して営業していたが、赤字が増え続け、22日から店内飲食も再開した。「飲食店としては多くの人に料理を食べてほしいけど、感染防止のためには花見を控えて欲しい気持ちもある」と複雑な表情をみせた。
東京・新宿のバスターミナル「バスタ新宿」にいた東京都足立区の女性(42)は、宣言解除を受けて、70代の母と長野県まで桜を見にいくという。昨年末から外食を控え、2人で自宅にいる時間が増えた。「久しぶりに外の空気を吸って、リフレッシュしたい」
横浜市中心部を流れる大岡川沿いでも「お花見クルーズ」を楽しむ光景が見られた。乗船客は、咲き始めた川べりの桜をスマートフォンで撮影したり、道行く人に手を振ったり。川崎市の60代女性は「旅行はしにくいので、川からの景色はいい気分転換になりました」と話した。
主催する会社の一つ「レクシステム(レクトラベル)」によると、今年から乗船中の飲食は禁止し、検温や消毒を徹底する。4月11日までで、すでに満席の便もあるという。「オープンエアの船で安心して景色を楽しんでもらえるよう、感染対策を徹底してお待ちしています」と担当者は話す。(増山祐史、林知聡)
「地道に観光客を増やしていくしかない」
観光・行楽の関係者も、期待と不安が入り交じる。
「はとバス」(東京都大田区)は22日、約2カ月半ぶりにツアーを再開した。乗車時の手指の消毒や検温といった対策を徹底し、バスの座席も定員の7割ほどの使用にとどめている。宣言解除が報道されるようになった先週あたりから、申し込みが増えてきたという。
それでも、桜を楽しむツアーの予約は現時点で約2千人にとどまり、例年の1割程度だという。広報担当者は「やるべき対策をしっかりと進め、地道に観光客を増やしていくしかない」と話す。
千葉県御宿町。民宿や海の家を営む加田政和さん(70)は、感染の「第4波」を心配する。昨夏はコロナのため海水浴場を開けなかった。「町の宿泊業者はもうぎりぎり」。町観光協会は4月1日から、宿泊客の料理を豪華にするイベントを始める予定で、感染防止対策の徹底を訴えながら、観光客を取り戻したいという。「今夏は海水浴場をなんとしても開きたい。『第4波』がこないよう、祈るしかない」
◇(木村浩之、稲田博一)
都立公園での花見の禁止・注意事項
◆禁止
・酒類を伴う宴会
・広場や園地でシートなどを広げての飲食
◆注意
・野外のテーブルでの飲食は短時間に
・歩きながら桜を楽しむ場合はマスクを着け、混雑を避ける
(東京都や都公園協会による)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル