「極めて閉鎖的かつ密室的」。関西電力のコンプライアンス委員会の報告書でそう指摘された役員報酬補塡(ほてん)問題。カットされた報酬を穴埋めするための「嘱託制度」を立案したのが秘書室(現・総務室)だった。その詳細が関電関係者への取材で浮かび上がった。
「これでは事実の認定すらできない」。今年5月初め、森詳介・元会長らに補塡問題で事情聴取を始めた委員会は、壁に直面した。多くの証言は内容があいまいで、関電側が提供した資料も数少なかったという。
転機は5月末。補塡内容を立案した秘書室の担当社員から「手持ち資料が部屋に残っているかも知れない」との証言を得た。委員会は関電に提出を求め、社内にあったファイルとCD―ROMを確認した。
二つの物証によって、補塡方針を検討した経緯の詳細が初めて明らかになった。委員会は電子メールを解析するデジタルフォレンジックも実施したが、決定的な証拠は出なかった。本当の機密は「オフラインの場所に残っていた」(関電関係者)という。
委員会は8月に公表した報告書で、秘書室が検討した補塡案は「(森)会長の意向をいかにして実現するかという一心」で行われていた、と分析した。批判的な意見を述べる社員・役員がいたとしても「会長の意向に沿っていない意見についてはほとんど考慮されていない状況だった」とし、秘書室の閉鎖性・密室性が不当行為を起こさせてしまった根本的な要因の一つだと結論づけた。
この指摘に対し、実際に嘱託を委嘱された元役員の一人は「報酬は嘱託としての仕事の対価だった」と強調したうえで、「嘱託報酬というやり方でカバーしたのは間違っていた。もしやるなら、現役時の報酬額を(カット前より)上げればよかった。秘書がちゃんと止めるべきだった」と話す。
秘書経験がある関電の元幹部も「どこの会社でもトップがむちゃを言うときはあるが、そこをどう止めるかが秘書室担当役員の仕事だ」と話す。秘書部門には対外公表できない案件が多く持ち込まれる、とも証言する。「何でもトップの言うことを聞いているだけでは秘書失格。リスクがある案件だと感じていたなら、体を張ってでも止めて欲しかった」と悔しがる。
関電では、会長が現役役員の報酬や退任役員の処遇など「カネと人事」を手中に収めており、秘書室の密室性と相まって今回の問題が生じた一因となった。報酬補塡は役員報酬を審議する人事・報酬等諮問委員会にも諮られず、取締役会や監査役会にも報告されなかった。関電関係者は「世の中に絶対にばれないと思ってやっている。そこに腐る原因がある」とし、「昭和の時代(の企業)そのままだ」と話す。
関電をめぐっては、福井県高浜町の元助役(故人)から役員らが多額の金品を受け取っていた問題が昨年9月に発覚してから26日で1年となる。続いて今年3月に役員報酬の補塡問題が明らかになった。
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当初は、関西電力のコンプライアンス委員会の調査について「委員会は関電社内の捜索に踏みきり、ロッカーなどから1冊のファイルと1枚のCD―ROMを探し当てた」としていましたが、「委員会は関電に提出を求め、社内にあったファイルとCD―ROMを確認した」の誤りでした。確認が不十分でした。訂正しておわびします
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル