2019年の参院選で、札幌市で街頭演説中の安倍晋三元首相にヤジを飛ばした男性(33)と女性(26)が北海道警の警察官に取り押さえられ排除された問題で、2人が憲法が保障する「表現の自由」を侵害されたとして道に慰謝料などを求めた訴訟の口頭弁論が24日、札幌地裁(広瀬孝裁判長)であり、双方の主張が平行線のまま結審した。判決は来年3月25日の予定。
争点は、排除が必要なほど切迫した危険性があったかどうかだ。
この日の弁論で、道警側は「聴衆が原告の2人に危害を加える可能性があった」などと改めて主張。原告側は「危険な事態など存在しなかった」と真っ向から否定した。
JR札幌駅前で「安倍やめろ」とヤジをとばした原告男性が排除された時の状況について、9月の証人尋問で警察官が「『おまえが帰れ』という怒号が聞こえた」と証言したことに対して、原告側は「当時の様子を撮影した動画でも怒号が聞こえず、証言は信用性を欠く」と批判。仮に怒号が上がっていたとしても「危険は抽象的なものにすぎない」と訴えた。近くで「増税反対」と叫んで排除された原告女性についても「危険はなかった」とした。
一方、道警側は、ヤジを飛ばせば周囲の自民党支持者から反発される恐れがあることを男性が認識していたと指摘。実際に男性が近くの人に拳で体を押されたとして「危険な事態だった」と主張。女性についても「絶叫していて興奮状態だった」などとして危険だったと説明した。
排除時やその後の警察官の対応についても主張がぶつかった。
原告側は、警察官が警告せずに男性を排除した点について「男性を囲んで安全を確保する方法もあり、過剰な実力行使だ」と訴えた。女性を排除後に複数の警察官が1時間以上追いかけたことについては「女性の前に立ちふさがって進行を妨げるなど、必要最低限度ではない」と主張した。
対する道警側は、警告の有無について「警告したが、男性が気づかなかった」と反論。女性を追いかけた点についても「女性が南進と北進を繰り返した」ため、安倍元首相に接近し、「危害を加える可能性を払拭(ふっしょく)できなかったから」と説明した。
原告側は、道警が問題の約7カ月後の道議会で初めて「警察官職務執行法4、5条による適法な処分」との見解を示した点について「時間をかけて言い訳を編み出したとしか考えられない」。その上で、一連の排除について「あたかも政治警察のように振る舞い、政治的表現の自由を封じ込めた」と批判した。
これに対し道警側は、排除は警職法に基づく行為で「組織的に政治的意見を排除する方針はなかった」とした。
最後の意見陳述で、男性は「警察が白昼堂々、政治的自由を奪った。厳正な判断を期待します」。女性は「肩書がない人にも政治的な表現の自由はあります。ヤジぐらい言える社会であることを判決で認めてほしい」と述べた。(平岡春人)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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