「あなたに向けて書いたんです」 小説家に起こった小説のような現実

 「あなたに向けて、書いたんです」

 青山美智子さんの小説「鎌倉うずまき案内所」に登場する一文だ。

 作中に登場する小説家のこのセリフには、青山さん自身の思いが込められている。

 「あなた」とは、自分の作品と出会ってくれた一人ひとり。

 次々と新刊が書店に並ぶ中で、選んでくれたあなたへ。

 「私は読んでくれているあなたと一対一で向き合うように書いています」

 執筆時にいつも心がけていることを、この一文に込めた。

 昨年11月に出版された「月の立つ林で」を書いた時も、もちろんそうだ。

 ままならない日々をおくる登場人物たちが月のように満ち欠けを繰り返し、似ているようで違う毎日を紡いでいく物語。

 全国の書店員が「売りたい本」を投票で選ぶ「2023年本屋大賞」の候補にノミネートされた。

 本屋大賞にノミネートされるのは3年連続。

 昨年は「赤と青とエスキース」、一昨年は「お探し物は図書室まで」で、いずれも2位だった。

 周囲からの「今年こそ大賞を」という期待を受けながら迎えた4月12日の発表日。

 大賞は凪良(なぎら)ゆうさんの「汝(なんじ)、星のごとく」で、「月の立つ林で」は5位だった。

「あなた」を実感した出来事

 書き上げた作品はすべて誇りを持って送り出しているが、本当に「あなた」に届いているのだろうか。

 出版社から「重版が決まりました」と連絡がきても不安になる自分がいる。

 そんな青山さんが「あなた」を実感した出来事があった。

 大賞発表の3日前、「月の立つ林で」で書いたような展開が自らの身に起こったのだ。

 布団の中でスマホを眺めていて発見し、思わず大泣きしてしまった。

    ◇

 4月9日朝、布団の中で見て…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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