桜ものがたり2020
玄関脇のベニシダレザクラは、夫が20年以上前にもらってきた時にはまだ細い苗だった。それから毎年、小さな花を咲かせる。茂村(もむら)としえさん(66)は手入れをしながら、自然の移ろいを感じ思いをはせる。
ああ、今年も桜が咲いてきた。病室の窓から見た桜はきれいだったけど、あれは悲しかったなあと。「あの子も一つ年を重ねたはず。もういいおじさんになってるのかも」。しかし、その姿は小さな命で止まったまま。名前も戸籍もない。ただ夫婦二人の記憶にあるだけだ。
42年前の3月29日未明、茂村さんは大阪市内の病院で男の子を産んだ。26週での早産で、体重840グラム。産声を聞くことはなかった。「今見ておかなければ」と無理に連れてきてもらい、15センチほどの体を左手に乗せた。
深夜、街灯に浮かび上がった桜が、涙で何重にもぼやけた。早く産んでしまったという罪悪感で自分を責めた。
その後、夫に誘われた北海道旅…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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