自民党の河井案里氏(参院広島)が初当選した昨年7月の参院選の公示前、自民党本部が案里氏側に1億5千万円という異例の額を資金提供した問題が、与野党の広島県組織に波紋を広げている。自民党の二階俊博幹事長が記者会見で事実を認めてから一夜明けた28日、党県連幹部は「特定の陣営にあまりにも巨額の金が使われ、おかしい」と主張。野党の県組織幹部は「これだけの金を何に使ったのか」と批判を強めた。
「自民党が公認した2人が支持層を食い合っただけの結果に終わったのに、案里氏だけに巨額の金が使われたのはおかしい。われわれが応援した現職の溝手顕正氏の10倍というのはやり過ぎだ」。党県連副会長の中本隆志県議会議長は28日、県議会棟で語った。
▽「露骨な肩入れ」
1億5千万円は、昨年4月から公示前までの間、案里氏と夫の克行前法相(衆院広島3区)が支部長を務める二つの党支部の口座に、党本部が振り込んだとみられる。中国新聞が報じた23日、案里氏は国会内で「もらったが、違法ではない」と事実関係を認めた。
二階幹事長も27日の記者会見で、資金は「党から出ている」と語り、党幹部として初めて提供を認めた。改選2議席の独占を図った広島選挙区で、落選した溝手氏への拠出は1500万円。差があった点は「若干の上や下はある。選挙が強い、弱いによって決めるわけで、問題ない」と語った。
広島選挙区は事実上、自民党公認の案里氏と溝手氏、野党系の無所属現職の森本真治氏による三つどもえの激戦となった。二階氏は公示後の昨年7月8日に広島県入り。広島市中区と福山市であった案里氏の集会をはしごし「それ見たか、という票を集めてほしい。当選した暁には要職に就ける」と激励した。
案里氏も二階氏の名前を繰り返し、口にした。2位で当選した同21日には「二階氏に『まずは自分の訴えを街頭で1人で始めること』と言われた。草の根の選挙だった」とあいさつ。その後に二階派へ入った。
溝手氏を支えた党県連幹部は選挙戦を振り返り、「二階氏は案里氏だけを応援し、溝手氏には目もくれなかった。肩入れの度合いがあまりにも露骨だった」と言う。別の幹部は「どこに行っても1億5千万円の話ばかり。今後の影響が心配だ」と眉をひそめた。
案里氏には現在、自らの陣営が車上運動員に対し、公選法の上限の2倍の報酬を払った疑いが浮かぶ。広島地検は今月15日、河井夫妻の自宅や地元事務所などを捜索。公設秘書たちの任意聴取も重ねる。陣営が複数のスタッフに違法な報酬を払った疑惑や、案里氏たちが党県議に現金を持参した証言もある。
▽政治不信を危惧
案里氏を推薦した公明党県本部の田川寿一代表は「金のある人が勝てるとなると、民主主義そのものが揺らぐ。新たな『政治とカネ』の問題として政治家不信を増長させかねない。車上運動員の買収疑惑などとともに、説明責任を果たしてほしい」と求める。
広島選挙区でトップ当選した森本氏を支えた国民民主党県連の福知基弘幹事長は「政党交付金も財源の一つである自民党本部の資金が、買収疑惑に使われた可能性も出てきた。ある意味、お金で議席を得たようにも映り、政治不信に拍車がかかる」と批判した。
自民党県連の宮沢洋一会長(参院広島)は25日、福山市のホテルでの会合で、党本部の対応を皮肉った。「2議席独占のために1億5千万円を使ったと思うが、考えてみれば(結果的に)1議席。もともとの1500万円で済ませておけば、同じ1議席でも随分、得したんじゃないかなという気がしないでもない」
Source : 国内 – Yahoo!ニュース