「あるかないか言えない」 世界遺産めざす佐渡金山でお蔵入りの名簿

記者コラム「多事奏論」 論説委員・田玉恵美

 図書館で奇妙な体験をした。ある資料を閲覧したいと申し出ると、しばらくしてやってきた職員にこう言われた。

 「これは、所蔵しているかどうか、お答えしないことになっているんです」

 私は新潟県立図書館で、来年の世界文化遺産登録をめざす佐渡金山について調べていた。検索したところ、かつての鉱山会社が提供した「佐渡鉱山史」を所蔵しているとの記述があったのだが……。

 説明に出て来た職員は、隣にある県立文書館の副館長だった。この資料があるかないかすら言えないのはなぜか聞くと、「それも言えない」という。

 取材すると、佐渡鉱山をめぐっては、ほかにも新潟県で「お蔵入り」になっている資料があった。

 「戦時中に佐渡鉱山で働いた朝鮮人労働者の名簿を、県立文書館が持っている」

 歴史研究者の竹内康人さんは、研究者仲間から以前そう聞いた。今年4月、同館に閲覧したいと申し出ると、非公開だと断られた。

 竹内さんによると、このときの県立文書館の副館長の説明はこうだ。

 名簿は、鉱山会社が所蔵していた「半島労務者名簿」。県が「新潟県史」の編纂(へんさん)をしていた最中の1983年に原本を撮影した写真(マイクロフィルム)がある。だが所有者の許可がなく、公開していない――。

 どういうことなのか。直接くわしく事情を聴こうと、私が先月あらためて県立文書館に取材すると、竹内さんにはいったん存在を認めたはずの名簿についても副館長が「あるのかないのかお答えしない」という。その理由も言えないそうだ。

 私が図書館で見た資料には、「佐渡鉱山史」も、新潟県史を編纂するために同じ鉱山会社から収集した資料として記録されていた。

 ならばと、その鉱山会社を1989年に吸収合併した「ゴールデン佐渡」に聞くことにした。現在、観光客などに鉱山を公開している会社だ。

 河野雅利社長によると、県立文書館から92年に「鉱山会社から提供を受けた資料について、市民から閲覧希望があった場合に公開してもよいか」という趣旨の照会があった。この年は、県立文書館がオープンした年だった。

 その際、ゴールデン佐渡は、「半島労務者名簿」や「佐渡鉱山史」については、原本が今はないので、「一般公開を控えてほしいと県立文書館に回答した」という。

 当時、親会社の三菱マテリアルにも報告しながらの決定だったそうだ。

 その後、「佐渡鉱山史」は2011年にテレビ番組の撮影中に原本が金庫から見つかった。そのため現在は、佐渡鉱山まで直接やって来る人には、事前に要望があれば見せている。

 しかし、「半島労務者名簿」…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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