コラム【風向計】
5年に1度の国勢調査が実施されている。対象は日本に住むすべての人や世帯。社会実態を把握し、政策立案につなげるのが主な目的だ。だが実態通り集計されない人たちがいる。同性カップルだ。 LGBT連帯、EUビルが虹色に 熊本県に住むくみさん(44)とパートナーもその一組。女性同士の2人は13年前、同性婚が合法のカナダで結婚した。日本で子どもを育てたいと帰国し、海外の精子バンクを利用してくみさんが2児を出産、2人で育てている。 くみさんは今回の国勢調査で自身を「世帯主」、パートナーをその「配偶者」として回答した。だが国は同性カップルについて、婚姻は法律上、異性間に限定されるとして国勢調査でも「配偶者」とは認めず、一方で同一世帯を構成していることを踏まえて、おじやおば、いとこと同じ「他の親族」に分類、集計している。
これでは日本に同性カップルの世帯がいくつあって、どんな暮らしぶりなのか全く分からない。当事者団体などは2010年の国勢調査から同性カップルを集計し公表するよう求めてきたが、国は今回も方針を変えなかった。 「まるで私たちは社会にいないかのようだ」。6年前、私が初めて取材した時、くみさんはそう言った。そのころ、くみさんは「子どもがいじめや偏見にさらされるかもしれない」と悩み、親しい友人以外にはパートナーとの関係を隠し、子どもの父親は「県外にいる」と話していた。 ここ数年、社会は大きく変わった。15年に始まった同性カップルを自治体が公認する「同性パートナーシップ制度」は全国に広がり、50以上の自治体で千組以上が認定を受けた。民間でも就業規則を見直し、同性パートナーを配偶者として扱う企業が増えた。
くみさんの考えも変わった。うそを重ねれば、子どもが出自に疑問を持ち、自分に誇りを持てなくなる。「うちはお母さんが2人なんです」。学校や地域でもカミングアウトし、受け入れられた。 地域に居場所はできた。だが国は一切認めてくれない。カナダ国籍のパートナーは「配偶者」としての在留資格が得られず、子どもの親権も財産の相続権もない。いつかビザが切れたら、家族が離れ離れになるかもしれない。 世界では29の国・地域で同性婚が可能だ。だが日本では法制化へ向けた議論どころか、現状の調査すらしない。「いない」ふりを続ける限り、課題が見えるはずもなく、政策の立てようもない。国は今すぐ彼らの存在に目を凝らし、その声に耳を澄ますべきだ。 (東京報道部・新西ましほ)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース