保釈中に海外に逃亡した日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)の弁護団の1人として、保釈を主導した高野隆弁護士(63)が朝日新聞の単独インタビューに応じた。前会長の逃亡後、報道機関の取材を受けるのは初めて。「保釈後の様々な理不尽」が逃亡を招いたとの見解を示しつつ、「彼に無力を感じさせた」と反省も口にした。一方で「経験から学ぶべきだ」と逃走防止策の導入に賛成する姿勢を見せた。主なやりとりは次の通り。
――逃亡の一報は
ネットニュースで。最初はフェイクかと思ったが、弁護団で確認すると「どうやら事実のようだ」と。
――当初はブログで「裏切られた」と書いた
最初はそう思ったが、いまはそういう風には思っていない。起こったことについてどう考えればいいのかを、常に考えている。
――新たな弁護団に入ったのは3度目の逮捕・起訴後の2019年2月中旬だった。どこから手をつけた
刑事弁護人としては、依頼人の自由を回復することをまず考える。拘置所の彼は多くの外国人の被告人と同様、非常に疲れていて、私の自己紹介も上の空だった。異国の地で逮捕され、何日も何時間も取り調べを受け、保釈請求は2回にわたって却下されている。失望するのは当たり前だ。
日本の裁判システムやこれまで私がやってきたことを説明し、不遜かもしれないが「必ずあなたを外に出す」と宣言した。彼の家族、娘さんたちにも「お父さんの65歳の誕生日(19年3月9日)までには必ず出します」と宣言した。
拡大するインタビューに応じる高野隆弁護士=東京都千代田区、高橋雄大撮影
――具体的な経過を
無罪を主張する事件だと、検察官は「罪証隠滅を疑う相当な理由がある」と保釈に反対する。口裏合わせをすると。正当な防御でも、関係者とメールをしただけで「罪証隠滅行為だ」と平気で言う。
被告人には裁判を対等に闘うために関係者とやりとりする権利がある。だから保釈は原則になっていて、阻止するなら検察側が「口裏合わせ」を疑うだけの証拠を出さないといけないが、実務はそうなっていない。自ら自由を制約しないと裁判官は認めない。
パソコンは弁護士事務所内での使用に限り、携帯電話はネット接続を禁じる。家の玄関には防犯カメラをつける、平日午前9時~午後5時は事務所に滞在させるといった条件を裁判官に示した。携帯もカメラも契約したうえで、事務所の部屋の写真を撮って「彼がいるべき場所はこういうところだ」と説得した。
――裁判官は「平日の事務所滞在」を外し、ほぼその通りの条件で昨年3月5日に最初の保釈決定を出した
そこまでやらないといけないのは悲しいことだ。こういうことを最初にやったのは1996年だ。夫婦げんかの暴行容疑を否認する依頼人が保釈されないので、私がアパートに一緒に住むと。平日は法律事務所で事務員として働いてもらうという形で保釈を勝ち取った。弁護団で「代用監獄作戦」と呼んでいた。
同じ発想でのぞんだのは今回が4件目だ。いずれも成功したが、ここまで弁護士が依頼人に関わり、プライバシーを放棄させないと保釈されないというのは文明国としてはあり得ない。
ゴーン被告は自由を失った
――ただ起訴後すぐの段階で保釈されたことは異例といえる。どう評価するか
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル