「おもてなし」の足もとで 在留外国人が見た東京五輪

 東京オリンピック(五輪)には、海外から約1万人の選手が参加している。一方、日本で生活する外国人は288万人。工場での弁当づくりや農作業、そして五輪施設の工事など、約38万人の技能実習生らの存在なしでは日常はもはや成り立たない。「おもてなし」の祝祭は、彼らの目にどう映っているのだろう。

 岐阜県内の中国人技能実習生の女性(38)は、会社の寮のテレビで開会式を見た。中国選手団は真っ赤なジャケット。参加選手は約420人にのぼり、2022年には北京で冬季五輪も開かれる。でも五輪に興味はない。中国と日本の対決となった卓球の混合ダブルス決勝も見なかった。「家族や親戚に選手でもいない限り、関心がない」

 女性は、縫製会社の工場で朝7時から夜10時までデザイナーズブランドの服を縫う。工場の隣の3部屋に実習生7人で共同生活し、食事は昼の1時間と夜の30分の休憩中に自炊ですませる。食費は月1人2千円。米を炊き、半額シールのついた野菜の炒めものでしのぐ。

 中国・江蘇省に長女(11)がいる。その世話を姉に任せており、基本給と残業代をあわせた月18万円の収入のうちから16万円以上を母国に送金する。五輪に興味はないが、経済効果で円高になれば、より多くの人民元をかせげる。「家族のため、1円でも多く送金したい」

 大会4日目。難民選手団の一人としてシリア難民のアラム・マハムード選手(24)がバドミントン男子シングルスに出場した。試合翌日の会見でマハムード選手は「プレーできたことが喜び。私を助けてくれたすべての人に感謝したい」と述べた。

 だが、日本で難民申請をしている中東クルド人の40代男性の視線は厳しかった。「ここは難民を『敵』とみなす国だ。難民選手は大丈夫? つかまらないの?」と皮肉を口にした。

 男性はトルコ軍に徴兵された後に同胞と戦うことを拒み、1990年代に来日。トルコに戻れば迫害を受けるとして難民申請しているが認められず、茨城県牛久市の東日本入国管理センターに2回、計4年以上収容された。今は「仮放免」状態で就労できず、いつ収容されるかもわからない。身分が中ぶらりんの状態で、新型コロナウイルスのワクチンが打てるかも心配だ。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によると、20年に日本が難民と認定したのは47人。不服申し立てを含めた処理数(1万1867人)に占める認定率は0・39%だ。東京五輪に参加した難民選手のホスト国別で見ると、たとえば英国は9108人(認定率35%)、カナダは1万9596人(同49%)、フランスは1万8868人(同14%)の難民を認めており、ケタが違う。

 男性を支援する「クルドを知る会」の松沢秀延さん(73)は「紛争から逃げ、保護を求める人たちに日本は冷たすぎる。五輪のおもてなしの前に、そばにいる外国人を大切にすべきではないか」と訴えた。(前川浩之)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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