「お父さん」。父に向かって、初めて声を出して呼びかけたのは70歳のときだった。
鹿児島市の吉見文一さん(82)には、父の記憶は何もない。
父の元明さんは旧海軍の軍人だった。
1943年8月、パプアニューギニアで見張り中に腹部を撃たれて死亡した。32歳だった。
吉見さんが生まれたのは41年1月。その2カ月後に父は戦地に赴き、帰ってくることはなかった。
仏壇にそっと置かれた遺書
父親をしのぶよすがは、母親と一緒の写真と、母親や自分に宛てられた遺書だった。戦死の1年前に書かれていた。
大学生活をおくる東京から夏に帰省した際、遺書を初めて目にした。母親から渡された記憶はない。母はそれとなく仏壇の前に置いたのかもしれない。
「オ前ニ出ス(中略)始テノ便リナンダガ、コレガ又最後トナル父ノ苦シイ告白ナンダ」という書き出しに衝撃を受けた。
初めて触れる父親の肉筆とし…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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