花曇りの日曜日だった。
千葉県船橋市の田中寛美さん(74)は2010年春、同居していた娘一家と近くの海老川で花見をするはずだった。でもその朝、娘の夫と孫娘が大げんかになった。
保育園児だった孫はスカートが大好きで、この日もお気に入りを着るつもりだった。でも娘の夫はズボンを着させたがった。嫌がった孫は、涙が枯れるまで泣き叫んだ。
今日は無理かな。そう思ったが、2人を離した方がいいと思ったのか娘が言った。「お花見、行こ」
海老川は、地元ではちょっとした花見の名所だ。川沿いに桜並木が延々と続く。屋台が並び、多くの花見客でにぎわっていた。スカートで出かけた孫も、綿あめを食べたり遊んだりするうちに落ち着いたようだった。
ふいに雲行きが怪しくなり、ぼつりと雨が落ちてきた。あ、と思う間もなく冷たい風が吹き荒れた。満開だった桜が雨に打たれ、強風に舞った。真っ黒な空を映した川面が、一瞬のうちに花びらで埋まった。
人影は消えていた。帰らないと。そう思いながら、目が離せない。
「きれい……」。孫は、花い…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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