朝ドラ「カーネーション」など、作品が高い評価を受けてきた脚本家の渡辺あやさん(51)。2021年は、文化庁芸術祭賞の大賞に選ばれたNHKドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」(主演・松坂桃李)で、不都合な真実が隠蔽(いんぺい)される社会をブラックコメディーで描き、反響を呼びました。さらに「自分たちの作りたいものを作る」として、若者たちと企画・制作した自主映画「逆光」(須藤蓮(れん)監督・主演)が公開中です。島根に暮らす渡辺さんを訪ね、挑戦的な活動を続けるわけを聞きました。
――今春放送され、11月に再放送された「今ここにある危機とぼくの好感度について」(略称「ここぼく」)では、大学の理事会を舞台に、データの改ざんなど不祥事が起こる社会を大胆かつ痛烈な皮肉で描きました。
ここ何年か、社会で対話や議論がなくなり、政治で横暴な決定がされていることへの強い違和感がありました。国全体が変だという意識のもと、自分のなかでやれることをやりたいという気持ちが高まっていました。
同時に、視聴率などの経済効率ばかりが優先される、映画・ドラマ制作への危機感も強まっていました。この業界から創作の喜びが失われてしまっていると思います。創作の現場で、作り手が本気で胸を躍らせ、楽しんで作ってはいない。真剣に良い作品を作ろうとする人ほど、立場を追われたり、苦しんだりしている姿もよく見ます。
でもそんな危機感に共感してくれる人たちもいて、一緒に作品を作りました。楽しみながら丁寧に作ってきた作品を、自分たちなりの旗だと思っています。
最初に掲げた旗は、2018年に放送されたNHK京都局制作のドラマ「ワンダーウォール」でした。
「ワンダーウォール」で問うたこと
――「ワンダーウォール」では、学生寮をめぐる大学当局と学生たちの対立を描き、大学の自治とは何かを問いました。現実の京大吉田寮の存廃問題に重なります。
現実に、大学寮の存廃をめぐって長年学生と大学の間で続けられてきた対話が、突然打ち切られ、以来大学側は取材も受けつけないという状況がありました。世界中が分断され、あちこちに壁がつくられている現状と重なって見えました。本来、大学は国家の権力から一番遠いところにあってほしいのに、無残に影響を受け、変わっていっているように思います。運営費交付金をもらうために国が喜ぶような研究をしなければならなくなっている。
さらに危機感を抱いたのは、学生たちがそうした現状に異議を唱えづらい空気になっていることです。社会の不寛容性も深刻だと、大人の一人として感じました。おかげさまでドラマは反響が大きく、20年に劇場版が公開されました。
「ここぼく」は同じ状況を、大人側から描いてみたいと思って作ったドラマです。
――大学の理事会の不祥事、データの改ざんなど、「ここぼく」が現実社会の危機的状況と大胆にリンクしているのに驚きました。
実は最終話を書いている途中にコロナ禍が深刻化し、いったん執筆を中断しました。そもそもは研究施設から謎のウイルスが流出したという設定だったのです。皆で悩みに悩み、蚊の流出による病気発生という設定に変更して完成させました。あまりに現実と内容がリンクしてしまって、このドラマをどう着地させるべきかにずいぶん考え込みました。
――「ワンダーウォール」は…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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