「あー困った困った。なんでこんな頭になってしまったんや」
母が家の中を探して回っている。支払いのため置いておいたお金の置き場所を忘れてしまったのだ。
わたし(69)は毎週、大阪府能勢町の実家に通っていた。高齢の母の様子を見るため、夫の運転で。昔の話はよく覚えているが、日常のことを忘れっぽくなっていた。母の認知症は徐々に進んでいた。
姉とも協力してきたが、みんな年をとっていた。気持ちが限界になる寸前、母に頼んだ。「近くにこんな施設があるんやけど」。「ああ、その辺やったら知ってるし、ええわ」と、母もどこかほっとした様子だった。
ある春の日、実家に向かう車…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル