街から人が消えた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が発令した緊急事態宣言。居酒屋やバー、百貨店の営業自粛が広がり、企業では在宅勤務の導入が本格化した。人々は感染を避けるように先を急ぎ、シャッターと貼り紙が店の休業を告げる。大阪・キタの24時間を追った。
《7日19・00 北新地》
テレビが安倍晋三首相の記者会見を伝える。夜の街は感染拡大のあおりを大きく受け、すでに休業している店が目立つ。バーを切り盛りする男性(42)は「検温、換気、人数制限とあらゆる対策をしている。北新地は大阪にとって必要な場所。緊急事態宣言が出ても営業を続ける」。この日も、いつも通りにカウンターに立った。
時間を追うごとに、人通りは減っていった。
《8日0・00 北新地》
スマートフォンに緊急事態宣言が効力を持ったことを知らせる速報が届く。
「緊急事態宣言まで出たら、ゴーストタウンになってしまう」。3月から個人タクシーを始めた南弘之さん(58)は嘆く。約200万円の初期費用がかかったが、前夜の売り上げは目標のわずか10分の1。3時間待って最初の客を乗せ、真新しいハンドルを握った。
《7・56 JR大阪駅》
朝が来た。通勤途中のサラリーマンたちが足早に通り過ぎていく。
金融機関に勤める吉田昌平さん(26)は大津市から電車で出勤。「車内は普段と変わらずの混雑。テレワークができる仕事ばかりではないし」。ベンチで缶コーヒーを飲み干すと、職場へと向かった。
《10・31 梅田駅地下》
「えらい世の中になってもうた」。大荷物を抱えた無職の女性(71)が途方に暮れていた。
持病の検診のため泊まりがけで和歌山県白浜町から来阪。高速バスが間引き運転となり、14時台まで便がないという。シャッター通りと化した地下街を前に「どないして時間つぶそう」とつぶやいた。
《10・38 阪神百貨店》
緊急事態宣言前に取り沙汰された大阪府による休業要請は出されないまま、「自粛」の2文字だけが独り歩きする。全面休業する施設がある一方で、阪神、阪急の2百貨店は食品売り場のみ営業。通常より開店時間を1時間遅らせた。普段の開店時間に合わせて店を訪れ、戸惑う人の姿も。
《13・05 JR西日本大阪本社》
在宅勤務の導入が進むオフィス。ランチタイムも人出はまばらで、休日のような静かな空気が漂う。
JR西広報部に出勤したのは普段の半分以下の9人。河(かわ)津(づ)公太さん(31)は「部署間の連絡が取りづらく不便だが、今はできる限り人との接触を抑えるしかない」。社員食堂も閉鎖され、昼食は愛妻弁当だった。
梅田の別の企業に勤める女性(33)は3月から在宅勤務中。「出歩けないのはストレスがたまる」と電話でこぼした。
《16・25 梅田駅地下》
地下は閑散とした光景が続く。開店時間を遅らせ、食料品売り場に限って開店した2つの百貨店は、少ないながらも夕食の買い物に訪れた客の姿が。かかりつけ医で受診するため大阪を訪れた兵庫県明石市の無職、鴫田宣昌さん(78)は「普段のにぎわいを知っているから変な感じ」。買い込んだおかずを手に帰路についた。
《17・30 JR大阪駅》
帰宅ラッシュの時間だが普段ほどの混雑はない。
「まずは命が大事だし仕方ないよね」とこぼすのは、神戸市須磨区の男性会社員(61)。仕事の後に飲みに行く機会もなくなったという。「電車の中で飲みます」。缶ビールを手に改札へ向かった。
《19・00 北新地》
再び街にネオンがともった。「いつもより暗くない?」。街角に立つ店員らがささやく。緊急事態宣言が出て1日。営業する店も散見されるが、24時間前よりもひっそりとしている。
この夜もバーを開けた男性(42)は語った。「昨夜は開けていた店もほとんど閉めてしまった。こんなに静かな夜は初めてだ」
Source : 国内 – Yahoo!ニュース