「ケツまくらんとしゃーない時はあるんです」。コロナ下で何もかもが一変した今の時代の切り抜け方を、そう語る。腹をくくった人間は強いのだと。
公演は中止になり、寄席も閉じるなど予期せぬことが続いた。「でも、一生っていうトンネルはない。どっかで抜けるはずや」。そう言い切れるのは、桂雀々という芸名をもらうまで、いろんなことがあったから。
母も父も家出して独りに
大阪に住んでいた11歳の時、オカンが家出した。中学生になると、今度はおやじが蒸発する。両親との暮らしは、もともと借金まみれで安定していなかった。賭博の胴元をするなど博打三昧(ばくちざんまい)の父は、家の水槽でピラニアの養殖を始めて失敗。無理心中を図った末のことだった。
記事の後半では、家出した母が約30年ぶりにふらりと帰ってくる話を語ります。
「孤児」になり、食堂の皿洗いや新聞配達、小間使などして働きまくった。居直るしかないと覚悟を決めたのは、独りぼっちになった家に借金の取り立て屋が押しかけてきた時のこと。金を返せと迫るパンチパーマのおっさんに、逆に金をくれとせがんだ。身の上話とおっさんの好きな落語の話で機嫌を取り、5千円をもらった。その後、本当に落語家になってしまうのだから、人生は分からない。
苦難も幸運も、両方を血や肉にして今がある。上京して10年になるが、若いころのドン底時代は、今も芸の肥やしだ。「いろんな他人さんと絡み合いながら生きてきた。酒乱の人にも助けられたし、大阪は濃くてパワフルな人間の街。ネタの宝庫です」
近ごろ出演した映画も、そんな地元で生き抜くサバイバーたちの登場する話だ。
3月12日の大阪アジアン映画祭で上映された「Come and Go」(リム・カーワイ監督、158分)。沖縄、徳島、ベトナム、ミャンマー――。夢や金を求め、多くの人がいろんな場所から行き交う大阪を描く。雀々は、便利屋の「レンタルおじさん」として自分を売る初老の男を哀歓豊かに演じた。
人生は行きつ戻りつ
題名には「行ったり来たり」という意味が込められている。沈んでは昇る太陽のように、人生あきらめなければ明日は来るで。仕事がなくても貧乏してても。「お金お金の小市民の話なんですけど、おもろい。商人(あきんど)の街らしくて」。台本はなく、「創作落語をするように」自分の持ち味を出して即興で演じた。
自身にとっての「カム・アンド・ゴー」は、オカンという。
◆独演会は大阪・新歌舞伎座で3月27日正午と午後4時半。昼の部で「不動坊」、夜は「仔猫」などを披露する。問い合わせは予約センター(06・7730・2222)。
30年ほど家出をしていたが、…
2種類
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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