入試シーズンが始まります。コロナ下で頑張る受験生たちへ、校長からのメッセージをお届けします。
昨夏の東大王選抜クイズ甲子園で「すべり止めの星」と呼ばれ、全国で知られる学校になりました。埼玉県の共学の進学校ですが、もしかすると、校名は知らない人もいるかもしれません。「すべり止めの星」って、素晴らしいでしょ。成功ばかりの人生なんて、あり得ない。挫折を味わった人間こそ強くなれる。「栄東に入学してくれてありがとう。さあ、ここから始めよう!」ですよ。
コロナ禍で受験生が併願を控えたせいか、昨年度の中学入試は出願者が減りました。それでも本校は8年連続で1万人超えです。埼玉県内の生徒は約半分。東京都、神奈川県の生徒が多く、遠くは茨城県鉾田市や栃木県那須塩原市、福島市からも毎日通ってきます。
進学実績では、近年、東京理科大の合格者が200人を超え、日本一になりました。埼玉県立浦和高校を抜く東大合格者を出した年もあります。昨年度も国公立大208人、医学部医学科87人、慶応大96人、早稲田大122人と増やしています。
原動力は「居甲斐(いがい)」です。「生徒一人ひとりがここに居る甲斐がある学校に」という意味。栄東には「御三家」をめざしていた生徒もいれば、第1志望にして必死に頑張って入学した生徒も来ます。育った地域も環境も違う。教員も、公私を問わず様々な経験をしてきた個性豊かな人が多くいます。
そこをめざした成功者だけが集うトップ校とは違う。多様な人間が集まる学校だからこそ、それぞれの力、個性を発揮し「私はこの学校に居る甲斐がある」と思って欲しい。
コロナ禍の中でも教員それぞれができることを考え、動き、昨春の一斉休校からオンラインで授業ができました。体育も音楽もオンラインで、地学の授業のために長瀞まで映像を撮りに行った教員もいます。卒業生も支援してくれて、毎年恒例のマスゲームを指導し、中止になった体育祭の代わりにオンライン配信できました。各家庭にも、本当にご協力いただきました。
改めて感じたのは、学校は勉強だけでは成り立たないということです。クイズが生きがいで優勝した生徒も、駅メロをチェロで奏でる生徒も、理科研究部などで興味分野を追究する生徒も、それぞれ勉強以外の得意なことで生き生きとした姿を見せ、刺激しあって、学校を「居甲斐」のある場所に変えていく。そこが大切なんだと気づかされました。
私も挫折ばかりの人生でした。高校時代は理系研究者をめざしたけれど挫折して、語学の世界へ。学生の間に通訳案内士の資格を取り、世界銀行に就職。欧州や米国で勤務し、海外の優秀な人たちと多く出会いました。いろんな経験をしてきましたが、自分の生きがいとなったのが、教師という仕事でした。
いま、コロナ禍で心が後ろ向きになっている受験生がいたら言いたい。いつも前向きな発想で、アグレッシブに挑戦して欲しい。走りながら考えればいい。後で、やっぱり受ければよかったと悔やむくらいなら、どこでも受けた方がいい。自分を信じて。たとえ挫折しても、その経験は必ず次への力になる。まずは、自分が生き生きできる「居甲斐」のある場を探してください。(聞き手=編集委員・宮坂麻子)
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〈たなか・じゅんこ〉京都市生まれ。同志社大文学部英文学科卒業後、世界銀行勤務を経て、公立中学の英語科教員に。夫の転勤にともない各地の教壇に立ち、埼玉県で退職後、学園創設者の佐藤栄太郎氏に採用され栄東中学の教頭に。2008年から校長。昨春より学園理事長も兼務。
★栄東中学・高校
・創立:高校1978年、中学1992年
・生徒数:共学 中学919人、高校1390人
・合格実績:東京大12人、医学部医学科87人、早稲田大122人、慶応大96人
・アクティブラーニングを教育の柱に据え、40以上の土曜講座も設けるほか、中3でオーストラリア、高2で米国への研修あり
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル