豪雨災害や津波で命に危険が迫っているのに「まだ大丈夫」と避難を選ばず、逃げ遅れてしまう――。なぜ避難を促す情報が行動に結びつかないのか。そんな課題を解決しようと、京都大防災研究所の矢守克也教授(防災心理学)は、避難行動を始める基準や合図を事前に決めておく「避難スイッチ」を提唱する。各地の実例などから、その取り組みのねらいを探った。
3年前の10月13日未明、台風19号による増水で長野市の千曲川堤防が決壊した。その数時間前に、普段はめったに使われることがなかった火事を知らせる半鐘が長沼地区に響き渡った。
当時、長野市消防団長沼分団の分団長だった飯島基弘さん(50)は、堤防決壊の前日午後9時半ごろ、自宅に一度戻り、家族を避難させた。そして自身は市消防局の分署に走り、最新の水位情報を収集した。地区の災害対策本部で耳にした水位標の、堤防高を越えるほどの水位が頭をよぎっていたからだ。
「5分だけ、たたけるだけたたいてくれ」
雨はあまり降っていない。普段、長沼地区では浸水に備えて、激しい雨の時は農機具を堤防の上に避難させる。そうした農機具は少なく、災害対策本部で抱いた危機感が地域の住民に伝わっていない、と感じていた。
日付が変わったころ、事態は…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル