少し肌寒い卒業式だった。
小山城南高校(栃木県小山市)の体育館には、張り詰めた空気と厳かな雰囲気が漂っていた。校長だった寺内孝夫さん(69)は、柔らかな口調で、卒業生にはなむけの言葉を贈った。
「どこへいっても、自分らしく、前を向いて歩いていってください」
いったい、どれくらいの生徒の心に届いているだろうか。入学式や始業式、終業式、校長として、壇上で話すことは何度もあった。
そのたび、「はやく終わらないかな」。そんな生徒の声が聞こえてくる気がした。
簡潔に、10分以内で春夏秋冬を意識して話した。一人でもいい、誰かに届いていたらいいなと願って。
2012年3月1日。この日の卒業式でもそんな思いで話した。
その後、昼過ぎのことだ。
校長室横の事務室から、声がかかった。
「女子生徒が1人、校長先生とお話ししたいと廊下で待っているんですが」
「入っていいよ」、「失礼します」。
一礼した彼女は、笑顔で切り出した。
「卒業する前に、最後に校長先生とお話ししてみたかったんです」
しっかりと話すのは初めての生徒だった。
2時間ほど、楽しそうに3年間の話をしてくれた。友達のこと、部活のこと、授業のこと、将来のこと。生き生きした表情をみて、充実した高校生活だったんだと思えてうれしかった。
帰り際、彼女が突然、手紙を差し出した。ピンク色の封筒にケーキの形をした愛らしい便箋(びんせん)だった。
「あとで、読んでください」
彼女がずっと思っていたこと
彼女が去った後、すぐに封を…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル