論説委員・井田香奈子=司法社説担当
生まれてきた赤ちゃんの父親は、法で決まる。子どもを守るはずのこのルールが、思いがけない窮地に母子を追い込むこともある。
そう知ったのは1990年代にさかのぼる。
夫の暴力にたえかね、家を出た女性が、新しいパートナーと出会い、子どももできた。出生届を出すと、「お父さんは『前の人』でしょ」と、職員が赤ペンで父親の欄を直してきた。
「子どもの父親は母親が妊娠した当時の夫」とする民法の「嫡出(ちゃくしゅつ)推定」の規定では、法的な父は前夫となってしまう。何度かけあっても、実の父を父親とする出生届は受理されず、子どもは戸籍に記載されなかった。
事実と違う父子関係をすぐ正せるならまだいい。だが、否定する権利は夫側が独占し、その協力が得られない場合、母子側がとれる手は極めて限られていた。
「なぜ勝手に国が父親を決めるのか」
そんな悲鳴が聞こえるような…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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