大学生や社会人、地元のお年寄りなどさまざまな人が一緒に夕食を囲むひとときが月に一度、鳥取市用瀬(もちがせ)町の一軒家に訪れる。通称「なべ部」。見ず知らずの人や世代が違う人同士が交流を深め、過疎化が進む地域のにぎわいづくりに一役買う場になっている。
国道53号から細い生活道路に折れた住宅街にある一軒家「もちがせ週末住人の家」。2月の週末の夜、大学生や地元住民ら18人が集まっていた。食卓には鹿肉のトマト煮込み、野菜と豚肉のマヨネーズ炒め、市販のルーを使わないシチューなど、大学生の手による作りたての料理が並ぶ。簡単な自己紹介の後、おなかをすかせた若者たちが争うようにご飯をよそい始めた。
なべ部が開かれる週末住人の家は元々、民泊施設だった。現在も建物の管理を続ける鳥取県大山町の企画会社「週末住人」共同代表の岩田直樹さんが、鳥取環境大(鳥取市)の学生だった2017年に開業。その際、地元住民との親睦の場として考えたのが夕食を囲む場だった。
現在、なべ部は後輩に当たる鳥取環境大3年の南本大偉(だい)さん(21)を中心に学生が運営。日程調整やSNSによる開催告知、会計も担う。食材は地元スーパーなどから調達し、メニューは料理好きの学生が考える。参加費(社会人千円、学生500円)を払えば誰でも歓迎される自由な「宴会」だ。
「ここではよそ者と思わず受け入れてくれる」と話すのは、三重県出身で鳥取環境大3年の堀友貴人(ゆきと)さん(21)。毎回シェフ役になり、作った料理を食べてもらう喜びを感じているという。普段はあまり接点がない他大学の学生や社会人とのおしゃべりで盛り上がる。「コミュニケーションの取り方など、ここでの経験が生きる」と就活にも役立てるつもりだ。
早稲田大3年の馬屋原瑠美さん(21)は笑いの輪に加わりながらカニ鍋をおいしそうに味わっていた。広島県出身。まちづくりに関心があり、大学院進学を目指している。知人の紹介で昨年11月に初参加、楽しさが忘れられず休みを利用して、再訪した。「縁もゆかりもない私が用瀬の人と出会った。まさにこれが地方創生の場でしょう?」
用瀬町は山陰と山陽を結ぶ街道の宿場があった交通の要衝。人口は合併前の昭和30年代に6500人近くあったが、現在は半減。市内に5カ所ある過疎地域の一つだ。
この日は地元住民3人が参加。松本典征(のりゆき)さん(85)は通りに若者の姿がないことが寂しく、交流を求めて毎回顔を出しているという。「いろんな人と話していろんな収穫がある。若い人が集まってくれるのは地元にとって刺激になる」。なべ部をきっかけに地元のカフェを訪れたり、祭りに参加したりする若者もいるという。
「こういう場を自分の町にも作りたい」。鳥取県境と接する兵庫県新温泉町の会社員、脇本充さん(44)も古里の過疎化と高齢化が気がかりで、なべ部の常連になった。この夜も顔なじみの学生たちとにぎやかに談笑した。ここで知り合いになった若者たちが新温泉町に足を運ぶようになれば活気づくと考えている。
自治体側もなべ部の活動を好意的に捉えている。鳥取市用瀬町総合支所の太田潤一支所長は昨年6月に参加した。「(地域住民と関わる)関係人口の増加などと堅苦しく考えなくても、ゆるい輪が広がっている。これが用瀬ファンにつながれば」と見守っている。年末にも別の支所職員2人が参加したという。(清野貴幸)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル