無期懲役が確定した阪原弘(ひろむ)元被告は2001年、裁判をやり直す再審請求をした。「開かずの扉」と言われるほど難しい手続きで、決め手を欠くまま時間は過ぎた。
11年3月12日午後、弁護団の谷田豊一弁護士(72)は一人、滋賀県日野町の山中に足を踏み入れていた。
「福島で、原発が爆発しました」。ラジオは緊迫したニュースを伝えていた。
手元には、23年前に警察官が作った実況見分調書があった。
被害品の手提げ金庫が見つかった場所まで元被告を案内させた、「引き当て」と呼ばれる捜査の結果だ。「自発的に案内した」と示す証拠となり、有罪判決の大きな根拠になった。
調書には「この付近で少し中に入った」と元被告が道すがら話したとされる言葉が書かれていた。ただ、元被告は公判で「警察官が右、左を教えてくれた」「鉄塔があったなあと言われた」とも証言している。
警察官による誘導があったのでは――。
その痕跡を見つけ出したかった。
写真の並びから見いだした一手
調書には元被告が山林を抜け、鉄塔の脇を通り、がけを下って金庫の発見現場にたどり着くまで、19枚の写真も貼られていた。
調書をもとに現場を歩いていくと、かすかな違和感を覚えた。
視界が悪く最も案内が難しいはずの山林内の写真が2枚しかなく、前後も逆のように感じた。
「捜査側はネガフィルムを持っているはずだ。検察に証拠開示を求めれば、何かわかるかもしれない」
確信があったわけではない。ただ、次の一手になると思った。
6日後、元被告が75歳で亡くなり、再審請求は打ち切られた。
葬儀で棺を閉める際の、「うわあああ!」という遺族の号泣がいつまでも耳に残った。
翌12年の3月30日、遺族が大津地裁に「第2次」となる再審請求をした。
ここで事態は大きく動く。
担当の裁判官が、これまで開示されてこなかった証拠を出すよう検察に促した。その結果、大津地検から2本のネガフィルムが弁護団に開示された。
ネガのデータを事務所で一人、パソコンで確認した谷田弁護士は驚愕(きょうがく)した。
開示されたネガフィルム、謎は解けた
データでは、捜査員が実際に…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル